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第六章◆精霊王ノ瞳~Ⅴ

      お陰様(かげさま)で。 今日(こんにち)(いた)るまで、クロイツのイライラとお付き合いする事になりましたが。 どう落とし前つけてくれるんですかね。 とは言え。こうなったからには、やるしかないので。 いずれは増々請求(ましましせいきゅう)する気、満々(まんまん)。 クロイツをはじめ、(いき)り立つ。 一同(いちどう)士気(しき)は高い。 すると、フェレンスもまた。 クロイツの言葉に(おう)じるため、羽織り(ストール)()(まと)った。 目指(めざ)すはアイゼリアの首都、イシュタット中心部。 城下(じょうか)支柱(しちゅう)破壊(はかい)した外敵(がいてき)の、 目的(もくてき)正体(しょうたい)()き止めなければ。 ところが飛び立つ気配(けはい)(うかが)うカーツェルが、(さき)(ゆず)ろうとしない。 後ろから手を取り、残れと言っても聞く素振(そぶ)りさえ見せなかった。 (あん)(じょう)。 分かりきっていたはずなのに。 どうする事も出来ないのか。 悲痛概念(ひつうがいねん)の何たるかを知る思いがする。 (やる)瀬無(せな)く、(にぎ)った手を強く引くフェレンスは(さら)に。 ()()きかけた彼の(ほほ)に手を()え、言い聞かせた。 「Miuwaits La Rourica (ミュウェイス ラ ルーリカ) ...  Fileique Auver Riu Lederdia(フイル イーク オーヴェル リウ レダーデャ) ... ... 」  私の愛しい人 ... 今度こそ、言うことを聞いてくれ ... ... 聞いたことのない言葉である。 (おそ)らくは、故国シャンテに(つた)わる古代言語(こだいげんご)だろう。 という事は、グウィンに(たい)し言っている ... ... ? 一部、吹き飛んだ(かべ)(かげ)に身を(かく)し。 やり()ごすしかなかったエルジオの(うで)の中で、チェシャは思う。 真相(しんそう)は不明だが。 自失(じしつ)しているはずのカーツェルが悲しげに(うつむ)いたのは、きっと、そのせい。 心臓が鼓動(こどう)する(ごと)に。 彼の視界は二重(にじゅう)にも三重(さんじゅう)にも散乱(さんらん)した。 (つづ)いて。 潜在意識(せんざいいしき)()る記憶を(むす)びつけたのは。 その時、彼が(いだ)いた悲痛(ひつう)(もと)づく。 狂気(きょうき)古家周辺(こやしゅうへん)(きり)()れたのは何故(なぜ)だろう。 ()ても立ってもいられず。 エルジオの(うで)から()け出たチェシャは二人を呼んだ。 「 シャ、マ !! ツェ、ル!!」 生憎(あいにく)にも。 ここに起きた事変(じへん)異変(いへん)(こと)なるよう。 幼子(おさなご)の声を耳にし、カーツェルの注意が(わず)かに()れたのを()に。 黒き羽衣(はごろも)(ひるがえ)し、フェレンスは飛び()る。 咄嗟(とっさ)の事。 その後ろ姿を目で追って(にら)む彼の目は、冥府ノ焔(めいふのほのお)とせめぎ合う金剛ノ聖火(こんごうのせいか)宿(やど)した。 聞こえてくる内なる声は、真新(まあたら)しい記憶すら()ぎ落としていく。 『ずっと ... こうして()らしていきたい ... ... 』 〈(うそ)だ〉 『つまり私は、お前の気持ちに(こた)えたい ... ... 』 〈嘘だ〉 先の会話を、二人の言葉を否定(ひてい)するのは誰だ。 『俺は、フェレンスに受け入れられたい一心で ... ... 』 〈本当に、そんな事を(のぞ)んでいるのか?〉 答えが見つからない。 何より(うたが)わしきは、己自身(おのれじしん)であって。 絶望感(ぜつぼうかん)(おそ)われる。 〈ならばいっそ、(おの)が心ごと()(くだ)け ... ...  あの御方(おかた)を行かせてはならない。  ()しければ力づく、手に入れろ。  そうだ。()(わた)すんだ。  まずは手始(てはじ)めに、その身体(からだ)を ... ... 〉 潜在意識(せんざいいしき)(ふち)(かろ)うじて、ぶら下がる。 彼の意識を(すく)い上げ、飲み込もうとしているのは誰だ。 ()いでクロイツが感じ取ったのは。 カーツェルに見合わぬ別格(べっかく)威風(いふう)。 「下がっていろ!! チェシャ!!」 距離(きょり)が距離だ。 流石(さすが)に声は(とど)かない。 クロイツに()わりエルジオが()()って事無(ことな)きを()たが。 二の足を()む。 あれは、本当にカーツェルなのか ... ... ? 〈 ザク ッ ... ザザザッ ... 〉 (あつ)みを()した(しも)()()()(たけ)る。 彼の咆哮(ほうこう)を聞いた者は(みな)恐怖(きょうふ)に打ち(ふる)えたという。 〈 オォオォォ ォォォ ... ゛!! アァ ァァァ ッ ... ゛!!〉 ノシュウェルもまた、圧倒(あっとう)された者の一人だ。 「あれが魔導兵 ... いや、竜騎士(りゅうきし)覇気(はき)か ... ... 」 先程(さきほど)までの冷や(あせ)が、脂汗(あぶらあせ)に変わった気がする。 (かた)や元部下の二人はどうだろう。 「わぁ、(すご)い ... ... 」 「(こわ)ぁ ... ... 」 一言で言うと。 語彙力(ごいりょく)なさすぎ。 ついでに言えば。 緊張感(きんちょうかん)も無い。 この()(およ)んで何だ。 負けた気がして少し(くや)しかったりするぞと。 なので。(くる)(まぎ)れだが聞いてみた。 「なぁなぁ。お前ら、もっと他に言うことないの?」 「え。ダメですか!?」 「面倒(めんど)くさい!」 いやぁ、()が元部下ながら、(たい)した(たま)してるわぁ ... ... ノシュウェルの(あせ)も、干上(ひあが)がってしまうようだった。 ところが、そうこうしている()(そば)を飛び、行き()ぎたのはフェレンス。 その姿を見送ったのち、思わず息を殺したノシュウェルが、古家(こや)()(なお)ったところ。 重心(じゅうしん)(ふか)く ... 深く落とし込み、特攻態勢(とっこうたいせい)をとるカーツェルの気配(けはい)。 「 チッ ... ... 」 クロイツは舌打(したう)ちし、呼号(こごう)する。 「貴様(きさま)もか? 足手(あしで)まといになるだけの役立(やくた)たずめ。  多方(たほう)(ひそ)策士共(さくしども)足掛(あしが)かりとなり、(つぶ)されるくらいなら、  せめて ... 道連(みちづ)れにして()け と言うのだ!! この、(おろか)か者が!!」 連想(れんそう)されるのは、各勢力(かくせいりょく)主導者(しゅどうしゃ)密偵(みってい)謎多(なぞおお)重要(じゅうよう)人物達。 「ここで貴様(きさま)(とお)しては、帝国の高位貴族、及び上院議員(マグナート)過激派信教徒(パルチザン)の思う(つぼ)」 それら(うら)で糸を引く者の不都合(ふつごう)を知らなければ、()つ手が無い。 (しか)らば、主従(しゅじゅう)動向(どうこう)制限可能(せいげんかのう)特権(とっけん)()たうえ、 各方面(かくほうめん)からの(あゆ)()りを(さそ)うのみ。 「愚劣漢(ぐれつかん)意識下(いしきか)(しず)思情(しじょう)になど、興味(きょうみ)はないがな。  何が何でも(やく)に立ってもらわねば、(わり)に合わぬのだ。  ()してや、面倒(めんどう)を見てやるつもりも更々(さらさら)ないぞ ... ... 」 ()()ぎ、()き込む逆風(ぎゃくふう)(あらが)うかのように。 ()き手(がわ)中指(なかゆび)人差(ひとさ)し指を(そろ)え、 視界(しかい)斜切(はすぎ)り、()り下ろされたのはクロイツの手。 先立(さきだ)ち、寡兵(かへい)鼓舞(こぶ)(はか)るべくして。 当者(とうしゃ)は声を()った。 「同志(どうし)()ぐ! 各々(おのおの)役目(やくめ)再認(さいにん)せよ!!」 (たい)()()相手(あいて)は、両腕(りょううで)蒼火(あおび)(とも)(かか)えた。 続けるクロイツの話声(わせい)は高く、(いさ)ましい。 「思い(さだ)めるのだ!!  死にたくなければ、〈相手は人〉という先入観(せんにゅうかん)一切(いっさい)()()れ!  進路(しんろ)(ふさ)ぎ、緩衝壁(アブソーバー)展開(てんかい)!  標的(ひょうてき)となった者は即座(そくざ)戦線(せんせん)離脱(りだつ)すること!」 ()の高い集合住宅(タウンハウス)屋上(おくじょう)に立つヴォルトが、合間(あいま)補足(ほそく)した。 「クロイツの目の前より手前(てまえ)理想(りそう)だな」 ()(くわ)えたのはノシュウェル。 「動きを止めるだけで()いぞ」 するとエルジオが不安(ふあん)()らす。 「いや、でも、アレ、本当に()まるんですか?」 背後(はいご)とは言え、対象(たいしょう)間近(まじか)覇気(はき)()びたのが彼とチェシャである。 無理(むり)もない。 配慮(はいりょ)一言(ひとこと)ずつ()えたのはノシュウェルの元部下、二人だった。 「止まるかもよ?」 「止めましょう!」 「止めないとねぇ」 真似(まね)て答えるノシュウェルは随分(ずいぶん)(ひか)えめ。 だが、ありったけの魔導弾(マギアブレット)(ふところ)(そな)位置(いち)に付き、(かま)(ずみ)みである。 (たん)(はっ)したのは、危難(きなん)淵源(えんげん)。 黒き(りゅう)見紛(みまが)う男。 特攻(とっこう)()()地盤(じばん)なき足下(そっか)に、 次元(じげん)()らぎを()し、()()めると。 (あつ)を受けた水面(みなも)のように(ひず)む空間。 ()てつく(ほのお)大気(たいき)から熱を(うば)い、 (しょう)じた旋風(せんぷう)(あお)られ(おど)り上がる刹那(せつな)に。 一室(いっしつ)諸共(もろとも)鳴動、瓦解(めいどう がかい)する古家(こや)半面(はんめん)。 来るぞ ... ... ! 面々(めんめん)(そろ)って身構(みがま)えた。 向き合う相手は(ひず)みの撃発(げきはつ)を受け、爆進(ばくしん)する。 その動体(どうたい)一直線(いっちょくせん)(はな)たれた(やり)(ごと)く。 避難誘導(ひなんゆうどう)配備(はいび)された人員(じんいん)複数名(ふくすうめい)目撃(もくげき)。 音速の(かべ)(やぶ)衝波(しょうは)が、大気を()るがす中。 衝撃圧(しょうげきあつ)()けじと息巻(いきま)いて。 クロイツは言い(はな)った。 「 止 め る の だ ――― !!」 (まん)()して、(いど)()かる。 面々(めんめん)にも、各自(かくじ)それなりの対抗手段(たいこうしゅだん)があった。 それと言うのも、一同の処遇(しょぐう)(まつ)わる。 数日前。話の(もと)となったのは、国家間(こっかかん)領土(りょうど)問題だ。 (もり)(ふち)程近(ほどちか)山岳(さんがく)の一部は中立地帯(ちゅうりつちたい)となっている。 アルシオン帝国とアイゼリア王国を(ふく)む、近隣複数国(きんりんふくすうこく)締結(ていけつ)した条約(じょうやく)(もと)づき。 原則(げんそく)非武装(ひぶそう)(さだ)められていたのだ。 また。当国アイゼリアと国境侵犯(こっきょうしんぱん)危惧(きぐ)する帝国との確執(かくしつ)根深(ねぶか)く。 ()をかけ、異端ノ魔導師に対する隠避教唆(いんぴきょうさ)(うだが)われているのだから。 険悪(けんあく)どころの話ではないとの(はこ)びから。 「実際問題(じっさいもんだい)、バレバレだよね。近隣国(きんりんこく)まで(さぐ)っちゃえば分かることなんだし」 「極力(きょくりょく)(てき)にしたくないからだろうって言われてるけど。  そうと認識(にんしき)される国家間(こっかかん)蔓延(はびこ)るのは、贈収賄(ぞうしゅうわい)だ。  どちらも利用(りよう)されてるふりをしているだけかもしれないし。食えないな」 「アイゼリアの王党派(おうとうは)が、まさかの国賊(こくぞく) ... 帝国ノ(ワンちゃん)かー」 「それとやり合ってから帰るって、どうゆう発想なんだろう」 「え。でも、そういうの面白(おもしろ)いじゃん」 「え。ああ、まぁね。そうだけどさ」 元部下、両名(りょうめい)の会話を聞きくうち。 ノシュウェルは作業を()えた。 「さぁて。整備(せいび)()んだぞぉ。  あとは感を取り(もど)すまで、ひたすらリハビリだなぁ」 軍手(グローブ)()ぎ、満足気(まんぞくげ)()()くと。 (とな)り合って闇雲(やみくも)な会話を続ける二人の(うし)ろを、ヴォルトが通る。 「うん。頑張(がんば)るー」 「しかし何年ぶりなんだ? まだ上手(うま)く使えるといいけど」 「それがね。フフフ。(おぼ)えてないんだー」 「わぁ。それ洒落(しゃれ)になってないよ、お(じい)ちゃん」 「フフ。ぶっ()ばされたいの? キミ。  やっぱ、いい度胸(どきょう)してるよねー。  僕よりだいぶ年下のくせにさー」 それは(たし)かに。そう思う。 けれど、大分(だいぶ)と言うのは具体的(ぐたいてき)に、どれくらいなのだろう。 「なぁ、お前。(とし)(いく)つなんだ」 もう一人に(たい)し、ノシュウェルが(たず)ねてみたところ。 「二十八です。ちなみに、こいつが降格(こうかく)()らたのは、自分が移動(いどう)になる十年も前で」 「は!? そんな歳で中堅(ちゅうけん)()れるくらいなのに、どうして俺のトコなんかに!?  いや()て、それより! もう片方(かたほう)こそ、お前、(とし)(いく)つなんだ!?」 「十八歳でーす」 「言うことがもう中年以上だから、やめなって」 かえって()けて見られるぞ? と、耳打ちしているようだが、筒抜(つつぬ)け。 「よし。決めた! ぶっ()ばしてあげる!」 (むな)ぐらを(つか)まれてから平謝(ひらあやま)りしている。 そんな()り取りを余所(よそ)に。 ノシュウェルの(そば)まで来てヴォルトは思った。 帝国の遊撃部隊兵装(ゆうげきぶたいへいそう) か ... ... 先程(さきほど)まで整備(せいび)されていた(しな)である。 一部、機械仕掛(じか)けと見受(みう)け、精察(せいさつ)していると。 帝国軍小隊を(ひき)いた元隊長の声が()かる。 「飛躍腿甲(ショットアップグリーブ)だ。  装備(そうび)すると跳躍(ちょうやく)による滑空(かっくう)可能(かのう)でねぇ」 場所と使い手次第(しだい)ではあるが。 縦横無尽(じゅうおうむじん)機動力(きどうりょく)を実現するものだそう。 「しかし ... どうして、そんなもんが巡視船(じゅんしせん)なんかに()んであったんだ?」 当然(とうぜん)疑問(ぎもん)を受け硬直(こうちょく)したのは、年下の中堅(ちゅうけん)(つか)()かった(がわ)事情(じじょう)を知る一方(いっぽう)は、すかさず居直(いなお)って()()んで行った。 「それはですね、勿論(もちろん)。誰かさんが(ふね)()っ取る時、  どさくさに(まぎ)れて輜重兵(しちょうへい)から強奪して(ふんだくって)来たからですよ」 「もちろんって何!?」 (たい)しブツブツ言い(わけ)する(ほう)も、すっかりと開き(なお)っている。 物資(ぶっし)は多いほうが心強いとか。 やられる前にやらなきゃだとか。 悪びれた様子もなく。 「だって僕、元奇襲兵(もときしゅうへい)なんだもの。  ()(した)しんだ補助装備(ほじょそうび)を見かけちゃったらさ、()っておきたいじゃん!」 はぁ。つまりアレか。降格(こうかく)()左遷(させん)要因(よういん)は、その手癖(てくせ)の悪さな ... ... ヴォルトは思っても口に出さない。 ただノシュウェルを見やり、二度ほど、(かた)(たた)いた。 けれども、少しだけ()()いて。 作業台を()()き、配慮(はいりょ)したうえ(ささや)いてみたり。 「えらい部下を押し付けられたもんだな。あんたも」 それがまた。丁度(ちょうど)、向かい(がわ)に立っていたエルジオには聞こえてしまって。 〈 も 〉 ... ... !? ちょっとショックだった模様(もよう)。 クロイツは部屋の片隅(かたすみ)で見聞きしているだけだった。 とは言え、確認しておきたい事が一つだけある。 「遊撃部隊(ゆうげきぶたい)と言えば、切れ者(ぞろ)いと聞いているが?  自慢(じまん)の攻撃手数(てかず)(おぎな)包括支援設備(ほうかつしえんせつび)もないのに、どうするつもりなのだ」 横槍(よこやり)を入れてみたところ。 答えたのは、元中堅(ちゅうけん)だった。 「ああ、それなら元隊長が何とかしてくれるかなって思います」 「何、その無茶振(むちゃぶ)り」 ノシュウェルは一瞬、戸惑(とまど)った様子。 だが、何故(なぜ)満更(まんざら)でも無さそう。 「貴様(きさま)出来(でき)るのか? 元の所属(しょぞく)を言え」 (たず)ねると。 「ええ、そうですね。昔は兵器開発をしてたもんで。  出来なくはないですなぁ ... もっぱら作り込む(ほう)でしたし」 クロイツも目を見開く意外(いがい)な返答。 どこからか ガタガタ ... と、(せき)を立つ音まで聞こえてきた。 あんたが兵器開発 ... ... !? とても信じられない。 ヴォルトとエルジオは見合わせて思う。 中堅(ちゅうけん)は知っていたという事か。 その場に居合(いあ)わせた諜報員(ちょうほういん)の心の中では、最早(もはや)逸材(いつざい)。 注目の人物は(くわ)えて言った。 「あ! でも、クロイツさん ... それ以上は聞かないであげて下さい。  つまり、この人 ... 規格外(きかくがい)改造品(かいぞうひん)ばっか作って、あなたの(もと)へ飛ばされたんですよ」 「やーん。言ってる! 聞かれる前に! どういうコト!?」 「 ... ... 」 元兵器開発技師(ぎし)や元奇襲兵(きしゅうへい)(たい)(おく)さぬどころか、クロイツまで(だま)らせるとは。 軍歴(ぐんれき)が気になる。 話は続いた。 「あと、自分。(かく)言う包括支援(ほうかつしえん)担当(たんとう)した元輜重兵(しちょうへい)なので、  系統設備(システムファシリティー)が無くても最低限(さいていげん)装置(そうち)さえあれば、機動支援(モビリティーサポート)くらいは出来ます。  とりあえず、手動伝送(しゅどうでんそう)とか、装填補助程度(そうてんほじょ ていど)なら ... そうだ、  巡視船(じゅんしせん)主配電盤(M D F)を組み(なお)せば使えるんじゃないかな」 ※MDF=メイン ディストリビューション フレーム 粗方(あらかた)前知(ぜんち)し言い(ふく)めているのだ。 これにはクロイツも相好(そうごう)(くず)す。 また、(くず)れると言えば。 ノシュウェルの人物像(じんぶつぞう)(あぶ)ない。 「 ハァ ... ハァ ... つまり、何だ。  それってのは ... 巡視船(じゅんしせん)、バラして良いってコトだな ... ... ?」 元技術者(エンジニア)(さが)である。 思わず声を()けたのはエルジオとヴォルトだった。 「え ... っ と ... ノシュウェルさん?」 「あんた、そういうキャラだった?」 「 ククク ... 残ったのは爪弾(つまはじ)きにされた奇人(きじん)のみと言うわけか。  貴様(きさま)は人を(なじ)れる立場ではないな」 (とど)めを刺したのはクロイツ ... かと思いきや。 「「「あなたが言う!?」」」 等々(などなど)。口を(そろ)えたクロイツ以外の面々(めんめん)だったりして。 ()られたくない。(なぐ)られたくない。けれど。 「類友(るいとも)って言うじゃんねー」 「うん。自分達なんか()()せられた(がわ)端役(モブ)ですし。  まともな(へい)は、あなたと(のこ)るなんて破滅的選択(はめつてきせんたく)なんかしませんよ。クロイツさん」 「おおおぉぉぉぉぉぉ ... ... 言うねぇぇぇぇ ... ... 」 飄々(ひょうひょう)とし言ってのける元部下、二人に()られてしまったがために。 この(あと)()り飛ばされたのは言うまでもなく。 彼、ノシュウェルだった。 アイゼリアの軍勢(ぐんぜい)(おも)に、爆撃(ばくげき)を受けた方面(ほうめん)へと派出(はしゅつ)されたよう。 手筈(てはず)(ととの)えたのは、国王、(なら)びに王党派(おうとうは)見張(みは)王太子(おうたいし)ウルクアである。 弱ったカーツェルをどうしたいのか、何をさせたいのか。 敵勢力(てきせいりょく)(ねら)いは(あき)らかになっていない。 (とど)めるに(いた)らなければ、どうなってしまうのだろう。 彼は何故(なぜ)利用(りよう)され続けるのか。 彼は何故(なぜ)、命を()け引きされてまで、 フェレンスの(そば)居続(いつづ)けることに執着(しゅうちゃく)するのか。 回想(かいそう)(まじ)え、(かぎ)(にぎ)る男について考察(こうさつ)するクロイツは、(あらた)め立ち(ひか)える。 その手は、長い前髪(まえがみ)(かく)された(ひとみ)の上に()えられ。 ノシュウェルを(ふく)同志(どうし)責務(せきむ)()たす、その時を()った。 初手(しょて)(もち)いられたのは捕縛弾(ほばくだん)(はな)たれた榴弾(りゅうだん)は対象の撃破(げきは)を目的としない。 兵装(へいそう)作動停止(さどうていし)、もしくは爆発物の破片(はへん)弾子(だんし)飛散(ひさん)(さまた)げ、火力を低下させる物だ。 生活圏(せいかつけん)への侵攻(しんこう)()けた場合に、 人命(じんめい)設備被害(せつびひがい)(おさ)えるは準則(じゅんそく)。 まさか対魔物(たいキメラ)重火器(じゅうかき)を人に使うなんて、思ってもみなかったが。 射手(しゃしゅ)の一人は、直後(ちょくご)に思い知る。 クロイツが常々(つねづね)口にしていた言葉の意味を。 相手(あいて)は人の姿(すがた)をしているに()ぎない。 魔物(キメラ)同然(どうぜん)なのだと。 極低温下(きょくていおんか)にあっては、原子(げんし)の熱運動すら収束(しゅうしそく)してしまうのに。 冥府ノ焔(めいふのひ)()れた同弾(どうだん)が、いつもと変わりなく機能(きのう)するわけがなかった。 彼ノ魔導兵(かのまどうへい)が目標点に(せま)り、()りかぶる。 〈 ガァアァァ――ン!! ガガァアァァ――ン!! 〉 胴板(どうばん)をへし()豪打(ごうだ)次々(つぎつぎ)(たた)き落されていく弾骸(だんがい)宅地(たくち)守備(しゅび)に当てられた人員は、未然(みぜん)展開(てんかい)した法壁(ほうへき)の中。 (はじ)かれたそれらが熱劣化(ねつれっか)し、()(くず)れていくのを見た。 ある者は気取(けど)られ、狙撃眼鏡越(スコープ ご)しに目が合う。 (こお)るようでありながら、(いかり)りに()ちた睨視(げいし)を受け。 脳裏(のうり)(よぎ)るは、死の一文字(ひともじ)。 それでも役目(やくめ)()たさねば。 追い打ちをかけるしかないのだ。 無腰(むごし)の相手は(いま)無傷(むきず)である。 ともあれ、特攻(とっこう)(ふせぎ)(とど)めた。 ()いては追進(ついしん)阻止(そし)せねばならない。 向き合う集合住宅の外面壁(がいめんへき)交互(こうご)()()がり、塔屋(とうや)()()え。 展望前(てんぼう)へと一直線(いっちょくせん)飛昇(ひしょう)したのは、再起(さいき)したての奇襲兵(きしゅうへい)だった。 「行くよ ... ... (はち)()にしてやるつもりで!」 無我(むが)(にお)わせ、悠々(ゆうゆう)と見上げてくる相手は最早(もはや)別人(べつじん)見受(みう)ける。 (たい)(ねら)いを(さだ)め、斜角回転降下(しゃかくかいてんこうか)()り出された第一撃(だいいちげき)は、回転速付加で威力(いりょく)()した手盾殴打(シールドバッシュ)。 相手は軽々(かるがる)と受け止めた。 無論(むろん)()てつく(ほのお)を前に保護(ウォード)持続(じぞく)期待(きたい)できない。 即座に(うし)遠方(えんぽう)まで()び、距離(きょり)を取ったところ。 〈うん。でも、ぎっくり(ごし)には気を付けるんだぞ?〉 「(うっっさ)いなぁ!!」 ()を見て受信装置(レシーバー)()しに言葉を()わす、ノシュウェルの元部下。両兵(りょうへい)。 「て言うかさ! ルース!! キミこそ!  砲弾(シェル)充填(じゅうてん)ミスって弾切(たまぎ)れさせたら(ゆる)さないから!!」 一人は、各個撃破ノ精鋭(かっこげきはのせいえい)。元帝国軍遊撃部隊、奇襲兵(ゆうげきぶたい きしゅうへい)。 「了解(りょうかい)。でも ... アルウィ、お前だって。  俺を退屈(たいくつ)させたら、二度と()まないからな。忘れるなよ?」 また一人は、同国軍輜重部隊(しちょうぶたい)機動支援特化、特殊技能兵(きどうしえんとっか とくしゅぎのうへい)()り取りを聞く誰もが思った事だろう。 あの二人、名前あったんだ ... ... !? 内、一人はノシュウェルだが。 彼は思う。 無いわけは無いとして。 今の今まで忘れてたなんて、言えない ... ... !! (かり)にも元隊長なのに、聞くにも聞けず。 よくもまあ、二人称代名詞(ににんしょうだいめいし)だけで()りきったなと。 (われ)ながら関心(かんしん)してしまう。 (かた)やクロイツは目を()じ。 強く()き込んだ風に乗る音に、耳を(かたむ)けた。      

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