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第30話
-最近、眞司が部屋に帰ってくる回数が少なくなった。
いや、前から…僕が夜中に帰ってきた時、眞司がいない事はよくあったけど。
最近はほとんど…休みの日も…姿を見ない。
帰ってきた形跡もない。
(…どこに行っているんだろう…)
学校では姿を見るけど、話しかける事は禁止されているし。
今はただ、眞司が仲間に囲まれて笑っている姿を遠くから見詰めているだけ。
でも、休み時間には眞司にLINEで呼び出される。
昼休みには眞司もその場所に居るから。
だから、前よりはまし。
遠くからしか眞司を見る事ができなかった頃よりかはまし。
-その日。
いつものように疲れて痛む身体を引きずり、とぼとぼと帰ってマンションを見上げると…部屋の窓から明かりが点っていた。
(眞司………!!)
眞司が帰っている……………!!
久し振りの眞司の帰宅に、僕は身体の痛みも忘れる程心が弾んだ。
「…眞司………っ!!…」
勢いよくドアを開け、部屋の中に飛び込み眞司の元に駆け寄ろうとして…服等を鞄に詰め込んでいる眞司の姿に足を止めた。
「…出かけるの?」
「………ああ」
僕の問いに、振り返りもせず眞司は答える。
僕は黙って荷物をしている眞司の後ろ姿をただ、黙って見ていた。
「…………………………」
そして…鞄が閉まる音と同時に、眞司のスマホの着信音が鳴る。
「…あ、おう。俺」
ポケットからスマホを取り出し、誰かと話している眞司の声は今まで僕が聞いた事がないくらい、甘くて優しい。
「…うん、今終わったから」
スマホを片手に話している横顔は今まで僕が見た事がない程、優しい。
僕には絶対、向けられる事のない優しい笑顔、甘い声。
そんな眞司を見たくなくて、思わず下を向く。
「…大丈夫だって。今から出るよ」
まるで僕の事などいないかのように…僕を振り返りもせずにスマホの相手と話し続けている眞司。
俯いている僕は…自分の足許だけを見て眞司の声をただ、聞いていた。
「…じゃ、今から帰るから」
………ズキッ………。
胸が痛い。
今までの眞司の行動や態度で、薄々気付いてはいたけど…。
(…どこへ帰るの……?)
眞司が帰る場所はここじゃないって………。
眞司の足音が遠ざかる。
(…行かないで……)
声は喉元まで出かかっているのに、何かが詰まって声にならない。
(…今日、僕、頑張ったんだよ…痛くて苦しかったけど、眞司が喜んでくれると思って…)
忘れていた身体の痛みが甦ってくる。
(…凄く頑張ったんだ…だから、“御褒美”…ううん、“御褒美”なんかいらないから…せめて今日は一緒にいて…)
足音が遠離る。
(…ううん、一緒にいなくていい…いなくていいから…僕を………)
ドアを開けて閉まる音が部屋の中、響いた。
(…捨てないで………)
目の前が滲んで足許に雫がこぼれた。
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