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第32話

「……………え?」 眞司の言葉に僕は戸惑い、立ちつくす。 先程まで浮かれていた気分も、一気に萎んでしまう。 眞司に連れて行かれたホテルの部屋で僕を待っていたのは、ひと組の男女だった。 女性はスラリとしてスタイルがよくて小顔で、美人というか、可愛い感じの…でも、凄くニコニコしていて…その笑顔が何かを期待しているみたいで、少し不気味な感じがする。 男性の方は背が高くて体格がよく、こちらは女性とは対照的に仏頂面で。 「だから、この女性が男性同士がシテいる姿を見てみたいって言っているから、この男性とシテ見せて」 …女性に僕が抱かれている姿を見せる…。 その言葉の意味を理解すると同時に、血の気が失せた。 今まで何人もの人に抱かれてきたし、その姿を別の男性に見られた事だってある…その姿を撮られていた事だって、知っている。 でも、今まで女性はいなかった。 僕が男性に抱かれている姿を…興味津々の女性に見せるなんて…。 いくら…眞司の指示でも…。 「…い…嫌だ…」 眞司の指示を初めて拒否したからか…足が…声が…身体が震える。 「………はあ?」 まさか自分の指示を拒否されるとは思っていなかったのか、僕の声が小さすぎて聞こえなかったのか…眞司が聞き返してきた。 僕は震える足を踏ん張り、両手を握り締めて叫ぶ。 「………嫌だ!!」 -瞬間。 左頬に衝撃が走った後、僕の身体は吹っ飛んでしまい…肩が壁にぶつかった痛みで一瞬、息が止まった。 頭がクラクラする。 「………う……」 「ペットの分際で俺に反抗するとはいい度胸だな。躾け直してやる」 その言葉で僕は自分が殴られた事を知り、左頬を押さえたまま呆然と眞司を見詰めた。 今まで眞司に殴られた事は数え切れないほどあったけど、これ程強く殴られた事は今までなかった。 それ程、眞司は本気なのか。 (…に、逃げなきゃ……) 眞司に対してそんな事を思ったのは初めてだった。 今まで何をされても眞司から逃げようなんて思った事なんてなかったのに…。 でも、これは嫌だ。 それは…僕の中のほんの僅かな…米粒くらい僅かな…残っていた…プライドだった。 僕の腕を掴もうと手を伸ばしてきた眞司の手を払いのける。 吃驚して目を見開く眞司の顔が見えたが、僕はそれどころじゃない。 部屋から逃げようと緊張と恐怖で震える足をなんとか動かしてドアを目指して走ろうとした。 ……………が。 後ろ襟を掴まれ、引き戻される。 「………嫌だ!!」 ベッドの上に放り投げられ、服を脱がそうとしてくる手から逃げる為に両手、両足を滅茶苦茶に振り回して暴れる。 「…嫌だ!!」 ベッドの上、仰向けに倒れている僕の服を脱がそうとしていた眞司の右手が振り上げられ…。 バシッ!! 僕の左頬に衝撃が走る。 バシッ!! 今度は右頬に。 そして、僕の耳許で囁く。 「いつもと同じようにしたらいいんだよ…少し我慢すりゃ、すぐ済むさ」 (…眞司は本気だ……) でも、僕もこれだけは嫌だ。 こんな…面白がって見るような…。 「…嫌だ!!」 手足を滅茶苦茶に振り回して暴れた。 …でも、体力的にも体格的にも僕が眞司に敵うはずもなく………。 何度も叩かれ、殴られて僕は気を失った………。

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