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第36話
-いったい、どのくらいの間そうしていたんだろう。
「…優紀…おい、大丈夫か?」
名前を呼ばれて気がつくと、和巳が心配そうな顔をして僕を見詰めていた。
「……………和巳………?」
僕が和巳の名前を呼ぶと、和巳はホッとした顔をした。
「………大丈夫か?心配したぞ。学校休むし、チャイム押しても返事ないし、部屋に入っても気付かず名前を何度呼んでも、全然反応がないから……」
和巳の言葉に窓から外を眺めると、西日が差して部屋全体が茜色に染まっている。
どうやら昨日、帰ってきてから丸1日同じ場所に座り込んでいたらしい。
「……大丈夫か?今日、珍しく学校、来なかったから……眞司に聞いても知らないって言うし……しつこく聞いたら、部屋の鍵を渡されて……」
「……眞司…学校へ来たの…?」
「…えっ…あ、ああ、来てたけど…」
(…そっか……学校へは行ったんだ……)
学校へ行けば、眞司に会えたのか。
眞司に言いたい事……聞きたい事は沢山ある。
……………でも。
実際に眞司を目の前にすると、何も言えなくなる事も知っている。
「……眞司が部屋を出たって言っていたけど、本当だったんだな」
「……………ない……」
「………え?」
「眞司は出て行ったんじゃない……眞司は帰ってくる………っ!!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
和巳も吃驚して僕を見ている。
でも、止まらない。
「だって…これ、ここ…この手紙にはしばらくって書いてあるじゃないかっ。しばらくって事は…いつかは帰ってきてくれるつもりだって事だよっ」
和巳はそんな僕を困ったような…憐れむような瞳で見詰める。
………分かってる………。
それが僕の願望だって。
でも。
認めたくない。
眞司が出て行って…帰ってこないなんて、信じたくないんだ。
「…とにかく、学校には出てこい…心配するから」
そう言った後、少し照れた顔をした和巳を僕は見なかった。
「…それからしっかり睡眠をとって、ちゃんと食べろ…どうせ何も食べてないんだろ?ちょっと待ってな、何か作ってやるから」
腕まくりをしてキッチンへ行き、少ししてお粥を持ってきてくれた和巳には悪いけど…食欲なんか全くなかった。
それより眞司が残していった手紙の事で頭はいっぱいで。
(…ねえ…眞司…しばらくって…いつまで……?)
いつまで待ったら…眞司は帰ってくる…?
(せめて…学校で…遠くから姿を見る事も、駄目なの…?)
僕の目から涙がこぼれ落ちた。
(………眞司……)
話せなくてもいいから………。
(会いたい………)
遠くから姿を見るだけでもいいから………。
(………眞司……)
会いたいよ…………。
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