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第5話
一日の仕事を終え、身の回りを片した雛森はパソコンの電源を落とした。言葉だけの「お先です」をぽつりと落とし、バイヤールームを出る。
雛森の仕事において、付き合いでの食事もプライベートな会話も一切必要ない。その理由は、それら全てを無駄なことと考えているからだ。
もちろんこの性格で友人などできるわけなどなく、退社後は家へと直帰することが多い。
今日も例にもれず、一目散でエントランスへと向かう雛森を引き留める声がした。
嫌々ながらも振り返った先にいたのは、両腕に雑誌を抱えた佐久間翼だった。
「お疲れ様です、雛森さん」
「別に疲れてないから」
雛森の返事に翼の顔が翳る。多少は慣れたといえども、相変わらずの攻撃性に翼はたじろぎ、乾いた笑みを漏らした。
まるで小動物を苛めている感覚になった雛森が、翼の抱えている荷物を指さす。
「そんなの大量に読んだところで、お前のダサさがマシになるとは思えないんだけど」
それは雛森にとって「その雑誌はどうした?」という意味だったのだが、出てきた言葉は全く別のものにすり替わっていた。
こうしてまた誤解を生んでしまう。
雛森は、決してわざと人を傷つけたいわけではない。それが仕事となれば、きちんと言葉を選び、相手に合わせた言い方だって出来る。お世辞だって言える。しかしながらそれは、そこに利益が伴うのであれば、という前提があってこそ。
そうでなければ自分が気を遣うことはただの無駄だからだ。
究極の面倒臭がりでシンプル過ぎる雛森の性格を理解している者は少ない。家族とごく一部のみ……そう、例えば。
「翼。ヒナのそれは、その雑誌を何に使うのか? って聞いてるだけだから」
翼の影から現れた人物が、雛森が言いたかったことを代弁してくれる。
雛森の性格を知っている者にしかわからない、言葉の真意を口にしたのは神上亜弥だ。
「アヤさん、お疲れ様です」
「ん。ヒナもお疲れ」
さっき翼に皮肉った雛森も、アヤが相手なら自分から労いの言葉をかけた。そんな雛森を仰ぎ見た翼は、驚愕の表情を隠さず呆然と立ち尽くす。
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