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第6話

 アヤから翼へと視線を移した雛森が白けた顔で翼に言う。 「なんだよサル。間抜けな顔で見てんじゃねぇよ」 「雛森さん……いえ、何もありません。もう慣れました」  入社して半年以上が経ち、多少は雛森の毒舌にも慣れた翼が苦笑いで答える。それに対し、鼻を鳴らした雛森は興味をそがれたように明後日の方向を見た。  そんな二人を黙って見守っていた神上が雛森に訊ねる。 「俺たちこれから飯食いに行くけどヒナも来るか?」  雛森は神上の誘いに内心驚きながらも、その言葉の裏に気づいて嘲笑した。  誘っていながらも、視線で「来るな」と訴えてくる神上。きっとここで雛森を誘うことで、翼を嫉妬させようという魂胆が丸見えだ。 (前までのアヤさんはこんな人じゃなかったのに)  雛森は目の前に立つアヤを見つめる。何を考えているのかわかりづらい表情は変わらないが、どことなく優しくなったと思う。 ピリピリしているのとはまた違う、近寄りがたい雰囲気は少し和らいだ気もしないでもない……が、アヤはアヤだ。威圧感は無くなっていない。  その証拠に、アヤの緑色の瞳は冷めた色で雛森を映していた。 「嫌ですよ。なんで俺がカップルに紛れて飯食わなきゃなんないんすか」  淡々とした口調で断った雛森に、アヤはにやり、と笑った。その隣では、カップルという単語に照れて俯く翼がいる。 (こいつらバッカじゃねぇの……付き合ってられるか)  なぜ自分が二人の惚気に付き合わないといけないのか、呆れかえった雛森は会話を切り上げてその場を後にした。  自分の憧れであるアヤが翼のようなバカと付き合っている意味がわからない。確かに翼は真面目だし、どんくさいながらも仕事に対して真摯に向き合っているとは思う。けれど、それが結果に繋がっているかと問われると答えはノーだ。  雛森から見た翼は、すこぶる要領が悪く、まるで人を疑わない。見たもの、聞いたことをそのまま受け止めてしまうのは正直というよりは愚かだと雛森は思う。  翼を見ていると無性に苛々して、小言を言いたくなる気持ちが抑えられない。それは、佐久間翼が昔の自分にそっくりだから。  雛森にとっての黒歴史ともいえる、学生時代の自分に重なるからだった。

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