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第7話

 翼たちと別れた雛森は、なんとなく飲みたい気分になり、夜の街へと足を向けた。  警戒心の強い雛森にとって、店選びは慎重だ。雛森には気に入った店があるとそこに通い詰める癖があり、今日も馴染みの店へと入る。  落ち着いた内装、薄暗い照明、カウンターの端の席に座り軽食を摂りながらグラスを傾ける。そんな雛森の隣にスーツ姿の男が座った。 「お疲れ様、英良ちゃん」 「……最悪」  仕事帰りだというのに疲れた様子もなく、今朝と変わらない笑顔を向けてくるのは南だった。 ウエイターに渡されたおしぼりを受け取り、爽やかに礼を返す。その一連の流れを見ていた雛森から大きなため息が出た。 「あんた俺のストーカーでもしてんすか? 気持ち悪い」 「たまたまだって。僕だってここが一番お気に入りの店なんだから仕方ないだろう?」  嫌味を華麗にスルーした南が雛森のグラスと自分のそれを合わせる。カチンと鳴った乾杯は一方的なもので、一緒に飲むつもりなど雛森にはない。  一気に残りの酒を煽った雛森が席を立った。その細い手首を南が掴む。 「少しぐらい相手してくれてもいいと思うんだけどな。僕と英良ちゃんの仲なんだし」 「あんたとの仲なんて無い。変な妄想しないでもらえます?」 「妄想じゃなくて現実だろ。僕は英良ちゃんがどこを触れられると弱くて、どこが好きか全部知っているよ」  にやけた顔で応戦してくる南を雛森は鋭い視線で迎え撃つ。引き留められて立ち上がれない代わりに、カウンターテーブルの表面を雛森の細い指がリズムよく叩いていた。  ここまで相手を腹立たせておいて、南はというと楽しそうに笑いながら握った雛森の手首に指を這わす。 「相変わらず英良ちゃんは細いね。すごく僕好みだ。僕、ブスとデブは大嫌いだから」 「あんたの好みなんてどうでもいいんですけど。セクハラで訴えますよ」 「こんな事でセクハラだなんて英良ちゃんらしくない。ベッドの上ではあんなにも乱れるのに」  南の一言に、雛森は触れられていた手を振りほどいた。 まるで視線で殺す気か、というほどに雛森は南を睨みつける。けれど南の調子は変わらない。 「やっぱり英良ちゃんは最高。そうやって強気な子をぐずぐずに溶かすのって大好き」 「趣味わる……あんたと話すと、こっちまでバカになりそうなんで帰ります」  雛森がチェックを頼んだタイミングで南も続く。  まさかついてくる気じゃないよな……という雛森の予想は的中した。

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