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第8話

 雛森が大股で歩けば、南も合わせて歩幅を広める。早足になってもそれは同じ。背後をぴたりとついてくる男を、どうにかして撒きたいのに出来ない。 その理由は簡単だ。 「──っ……あんた、バケモンかよ」 「ねぇそれ褒めてる? 僕ね、体力にはちょっと自信あるんだ。なんてったって学生時代からずっとテニスしていたからね」  競歩のように歩き回り、最終的には走ってまで南を撒こうとした雛森が肩で息をした。 雛森がどれだけ必死になろうと、南は息一つ乱すことなく食らいついてくる。スポーツマンの南と、完全なるインドア派の雛森との体力差は歴然だった。  電柱に手をつき、荒い呼吸を整える雛森の腰を南が抱く。 「俺に触るな!」 「そんな状態じゃ帰れないでしょう。ちょっと休んでいこうよ」 「休む……って、おい!」  力の入らない雛森の手を、南はぐんぐん引っ張っていく。その向かう先には色とりどりのネオンが輝き、宿泊や休憩といった文字が書かれた看板があちこちに立っていた。  いわゆるラブホテル街。 南から逃げることに夢中で、自分がどこへ向かっているのかなど考えてもいなかった雛森は、苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた。 *  肌を打ちつけ合う乾いた音。その後を追うように水音が鳴る。 「う……っ、は」  南の怒張したものが雛森の中を抉る。偶然当たった浅い膨らみを南が再び突けば、雛森は声を殺して息を吐いた。 意地でも声を出さず、小刻みに震える雛森の身体を南が抱え起こす。胡坐をかいた自分の上に雛森を座らせ、下から一気に突き上げた。 「うっ……く」  深いところまで犯された雛森が唸る。決して可愛らしい嬌声ではないのに、それを聞いた南の口角が上がった。 「いいね、そうやって耐えてる姿。下手な演技でアンアン喘がれるよりそそる」 「うる、さい……っ、早くイけよ」  性交の最中であったとしても雛森の態度は変わらない。甘い言葉も、強請る台詞も一切なく、ただただ耐えるだけだ。  自分だけが射精するなんて雛森のプライドが許さない。たとえ女役をしていたとしても、心までは組み敷かれたりなどしない。 その気持ちを込めて快感を堪え、後ろで咥えこんだ男を締めつける。

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