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第11話

「じゃあまたね、英良ちゃん」  シャワーを浴び、身なりを整えた南が先に部屋から出る。雛森はそれをベッドに突っ伏して無言で送った。 激しすぎる南との情事後は、身体がまともに動かない。雛森は、しばらくそのまま過ごしてからバスルームへと向かう。  南はことの最中こそSだが、それ以外は基本優しい。コンドームだって必ず付けるし、間違っても中に出したりなどしない。口淫を要求されたこともない。  あくまでもプレイとしてセックスを楽しみ、後腐れなく去って行く。そこからは遊び慣れている様が見て取れるし、本人もそれを隠す素振りなどしない。 「腰、だるい」  酷使しすぎた下半身が鉛のように重たく、なんとかシャワーを済ませた雛森はベッドへと腰掛けた。脱ぎ捨てられたジャケットのポケットから取り出したのは煙草。火を点けたそれを深く吸い込み、宙へと紫煙を吐く。  煙草もセックスも。どちらも雛森にとってはかけがえのない物だ。 自分が自分らしくある為に、なくてはならない物。完全に依存している、そう雛森は思った。  セットしていたアラームが鳴り、物思いに耽っていた思考が止まる。そろそろ出社しないとまずい時間、昨日と同じ服で現れる自分に大沢は嫌悪感を露わにねめつけてくるだろう。 (サボってやろうか……って無理か)  今日もあのバイヤールームには自分がするべき仕事が待っている。するべき事を後回しにするのは、三流だと教えてくれた『あの人』の姿を雛森は思い出した。 「この状況見られたら怒られるかな」  呟いた後に、すぐそれはないと雛森は思い直した。 あの人はもう俺を見ない。どれだけ思っても、どれだけ追いかけても無駄だと痛いほどわかっているのに。それでも雛森の中から彼は消えない。  煙草を揉み消した雛森は、そそくさと部屋を出た。 支払いは既に南が済ませていたらしく、そういうそつがないところも気に入らない。そうやって遊びだと知らしめてくれなくとも、本気にするわけなどないし、こちらだって本気ではない。  本気の恋なんて無駄でしかない。そんなことをしている時間があるのなら、雛森は迷わず働くことを選ぶだろう。 もっと成果を残し、誰にも文句の言われないところまで登りつめる。その為に、雛森の向かうところは決まっていた。  昨日と何も変わらない道順でバイヤールームへと向かい、昨日と同じように大沢の小言を受け、昨日よりも手厳しく言い返す。 会社では極力吸わないようにしている煙草を我慢する為、コーヒーを買いに向かった雛森の足が止まった。視線の先にあるのは、朝方まで一緒にいた腹黒男の南聡介だ。 南の隣には、他部署だと思われる雛森の知らない女性社員がいて、二人は仲睦まじく笑い合っていた。

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