水を飲んでいた雛森を凝視する南の視線。それがやけに突き刺さる。 「なんですか？」 「いや、英良ちゃんが僕のベッドで寝ているって夢のようだなと思ってね」 「……今すぐ出て行きます」 　勢いよく掛け布団を跳ね除けた雛森がベッドから出ようとする。それを止めたのは南だ。 「駄目。今日はここに泊まってもらう」 「はあ？　意味がわからないんですけど」 「倒れるまで無理した君を一人にはできない。今夜は僕が面倒見るから」 　正面から抱きしめられ、雛森は押し退けようと南を突っぱねる。けれどいつも以上に力が入らず、南はびくともしない。 「離してください。あんたに世話になる理由がない」 「理由ならあるよ。僕は英良ちゃんが好きだから」 「はっ、あんたあ言う好きなんて抱かせろって意味だろ。最初からそう言えばいいのに」 　目の間にある南の首筋を雛森は舐める。首の付け根から舌先を使って上り、耳の裏を軽く吸って離れた。 「別にいいですけどね。ちょうど溜まってたし、頭がすっきりしたから今度は身体ってのも悪くない」 　南の服の裾から手を潜り込ませた雛森は、その硬い素肌を手のひらで楽しみつつ服を脱がせていく。されるがまま、上半身を晒した南に雛森は煽るような挑戦的な瞳を向けた。 「礼は身体で払ってやるよ。あんた、俺の顔と身体が好きなんだろ？」 　倒れた時に緩められたのだろう、第二ボタンまで開られた自身のシャツに雛森が手をかけた。三つ目、四つ目とそれを外し、残り二つになった時。 　雛森の手を制止する声がかけられる。 「すごく魅力的なお誘いだけど遠慮しておくよ」 　その手を止めたのは南で、中途半端に開けられた雛森のシャツの前を合わせて肌を隠す。 てっきり乗って来るかと思った南の言動に、雛森は戸惑った。下半身と本能で生きていると言ってもいいこの男が、まさかセックスの誘いを断るとは思わなかったからだ。 　もしかして自分の身体に飽きたのではないか……と、雛森は頭の片隅で考える。しかし、それは違った。 「病人に手を出すほど飢えていないからね。僕は心も身体も強気な英良ちゃんに興味があるから」 　シャツのボタンを締め終えた南は、張り付いていた雛森の前髪を掬う。それを左右対称に掻き分けると、形の良い額が露わになった。 そこに手のひらを当て、熱がないことを確認した南がベッドから立ち上がる。 「英良ちゃん、どうかした？」 　南が問いかけたのは、雛森が呆気にとられた顔をしていたからだ。普段から無表情な鉄仮面を剥がさない彼が、見たことのない顔をしている。 南の口角が僅かに上がった。