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第23話
「あんたには関係ない」
硬い声で答えた雛森に、南は平然と返す。
「そうかな。見間違えるほど似ているのかなって気になったから聞いてみたんだけど」
「似てない。あの人とあんたが似ててたまるか」
言い捨てた雛森が軽く息を吸う。それを全部吐き出してから、南へと向く。
感情を殺しきった顔つきでありながら、瞳にだけは拒絶の色を帯びさせた雛森に、南は言いようのない満足感を覚えた。
弱みをついたはずなのに簡単には屈服しない雛森に、南は昂揚する。全身をゾクゾクと痺れさせながら、漏れ出そうになる笑い声を噛み殺す。
南には、雛森がどちらを選ぶかなんて考えなくてもわかっていた。
プライドが高く、自分のことを話したがらない雛森。そして昨日の驚いた彼の様子と、今の恥辱に怒る表情。
追いつめられていく雛森が可笑しくて堪らない。
「どちらも嫌だは通用しないよ。僕はアヤと違って下心なく君を助けたりなんかしない」
とどめとばかりにアヤの名前を出した南に、雛森は唇を噛む。雛森がアヤに頼れないことを知っていて、あえてその名前を出した。
自分自身で性質が悪いと思いながらも、南は攻撃の手を緩める気はない。
もっと追い込んで、もっともっと限界に近づいて苦しむ表情が見たい。その気持ちを、南は張り付けた笑みの裏に隠す。
握っていたフォークが折れるのではないかと思うほど力んでいた雛森が力を抜く。
黒く濁ったその目から感情は読み取れなかった。
「……わかりました。一ヶ月ぐらい我慢します」
予想通りの選択をした雛森に南は満足げに頷いた。
「但し! 明らかに無理な事や理不尽な要求は無視するんで」
「いいよ。簡単なことしか言うつもりないから」
ゴミでも見るかのように自分を見た雛森に、南は甘く掠れた声で囁く。
「じゃあ早速だけど今日のお願い」
まるで最愛の人に告げるよう、しっかりと目を合わせ、吐息すら意識して南は続ける。
「絶対に僕を好きにならないで。ああ……でも、恋愛ごっこなら付き合ってあげてもいいよ」
瞬間的に雛森は持っていたフォークを南に向かって構えた。鋭いその切っ先で南を指し、更に鋭利に尖らせた視線で南を射る。
「俺は恋愛なんて無駄なものはしない。それに、あんたを好きになることは絶対にない」
一瞬、瞠目した南は突き立てられた食器の先を見つめる。そして何を思ったのか、少し前まで雛森が使っていたそれに、ゆっくりと舌を這わせた。
情事の時を思い出させるその動きに、雛森が身体を退く。
すかさず追いかけた南は、テーブルへと身を乗り出し、逃げ遅れたその唇へとかぶりついた。
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