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第24話

 潜り込んできた南の舌からは、ドレッシングの味がした。 雛森が自身の舌を隠すように奥へと引っ込めると、当然のように南はそれを追いかけ、雛森の咥内に唾液が溢れる。  心と反して昂っていく身体を抑え、雛森は自分からは応えないよう手を突っぱねた。 「ん、ふっ……ん」  次第に蕩けていく自分の声を聞きながら、それでも雛森は流されずに無心を貫く。  やがて強引な口付けは終わり、二人の唇が離れる。 濡れた口唇を親指で拭った南が、にっこりと笑って、雛森が褒めたドレッシングのかかったサラダを指さした。 「これね、ちゃんと出汁からとってあるんだよ。僕、料亭の息子だからこういうのは得意なんだ」 「は?」  いきなり何を言い出すのか、と雛森は柳眉を上げた。無理矢理キスをした後に、それが自分の手作りだと言う意味がわからなかったからだ。 爽やかな笑みを浮かべ続ける南は、そんな雛森の様子を無視して言う。 「今度、英良ちゃんの為に懐石料理でも作ろうか? あ、もちろんお礼は戴くけどね」 「……くだらない」  一蹴した雛森は、食べかけだった朝食を置いて寝室へと戻った。着てきたジャケットを羽織り、荷物を持って部屋を出る。  今日も泊まればいいのに、体調が戻ったなら抱いてあげてもいい、そんな馬鹿馬鹿しい南の言葉を無視し、家を出た。  残された南は、雛森が残したサラダを掬う。 彼が美味しいと言ったそのドレッシングを指先に絡め、一口、舌の表面に乗せる。 「……美味しい、ねぇ。わかんないなぁ」  切なく掠れた声は、『嘘つき』な南聡介の本音だった。

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