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アップルパイ攻防2

それからは、あっという間に時が過ぎていったと思う。恋人がいない時よりもいる時の方が、夜がくるまでが早く、いつの間にか朝を迎えていたと感じることが多かった。 仕事が閑散期でも、竜士が自宅に泊まりにくる日は、始業の頃から「今夜は何を作ろう」とか、「風呂の掃除ができていないから、帰宅したら急いでしないと」などと考えを巡らせていると、気づけば昼休憩のチャイムが鳴っている。繁忙期で仕事に追われている時には流石に彼のことばかり考えてはいられないが、光陰矢の如し、喉元過ぎれば熱さを忘れるとばかりに時間は過ぎ去っていく。 そして、竜士ともバレンタインデーだのホワイトデーだの、ゴールデンウィークだの喧嘩だの何だのと、大なり小なりのイベントを経て、付き合って1年の記念日を何とか無事に迎えたのだった。 その頃だ。竜士が「良さそうな物件見つけたんだけど」と言って、分譲マンション――現在の自宅の広告を見せてきた。 「ここで一緒に暮らそうぜ」とあまりにもさらりと言われたのに加え、なかなかの好物件で家賃もシェアすれば今の住まいよりも安かった。瑛汰は軽い気持ちで「いいんじゃないか」と即応した。 けれども後々になって、「これで良かったのだろうか……?」とぼんやりとながらも不安が芽吹き、むくむくと膨らんでいった。 が、その時にはすでに、竜士は入居の手続きをほとんど済ませており、後は引越しを待つのみという引くに引けない状況になっていた。やむ終えなかった。こうしてふたりは、この春から同棲生活を始めた。 半年ほどが経過した今、竜士との喧嘩は増え、胸のうちには彼に対する不平や不満が積み上がり、彼の顔を見たくないと思い、自室に篭ることが多くなった。もう何度、この家を出て行こうと思っただろう。 互いに負けん気が強い。喧嘩をするとなかなかおさまらない。だからいつも最後には、竜士が力ずくで暴言を吐き散らす自分を抑え、丸めてくる。 といっても、別にプロレスをするわけではない。寝具での行為で、瑛汰を黙らせてくる。 それがまた腹立たしい。セックスで気持ちよくなれば、なぁなぁで諍いを終わらせることができると思っている。 何より、それに流されてしまう自分自身に、一番憤る。良くも悪くも、竜士とは身体の相性がぴったりだ。情事に関してはこと不満がないのもあって、そんなことになってしまう。結局は竜士の思い通りになり、そんな関係に嫌気がさしているのが現状だった。 まだ、別々に暮らしていた頃の方が上手くいっていたのでは、と思う。 だから一旦、竜士とは距離を置き、自分たちの仲を見つめ直したいと考えているものの、どうしてだろう。 本人を前にするとなかなか切り出せずに、思いはずっと胸中で燻っていた。

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