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それから1

翌日から早速、仕事帰りにジムへと向かった。 「自分も昔は陸上部で投擲してたんですよ」と言うトレーナーからアドバイスをもらいながら筋トレに励んだ。肉体的に相当キツかったが、「やっぱり、元スポーツマンなだけあって筋が良いですね」と褒められ、瑛汰はモチベーションを維持したまま、与えられたメニューをこなしていった。 クールダウンのためのストレッチは入念にしたが、その次の日は全身が筋肉痛になったため身体を休め、痛みが引いてきた頃から再びジムに通った。 ジムに行かない日は小一時間、川沿いの道を走り、食事を徹底的に制限した。 家では白米やパンは必要最低限しか口に入れず、竜士の食事とは別に、野菜やタンパク質を多く含む自分用の料理を作って、食べるようにした。会社では社員食堂で昼食をとるが、そこでも極力、野菜を中心としたメニューを選んで食べ、付き合いで飲みに行くことを控えた。 痩せるために、やれる限りのことをやった。 学生時代のストイックだった頃の生活には及ばないものの、精神的にはあの頃に戻ったようだった。最初のうちは辛かったが、継続していくうちに身体が当時を思い出してきたのか、そういった日々に馴染み、こなしていくのが楽しくなってきた。 ランナーズハイという言葉があるが、自分の場合はダイエッターズハイとでも言うべきか……。とにかく、苦しみの先にある爽快感や心地の良さを覚えながら、毎日のように汗を流した。 一方の竜士は相変わらず、週に一度は必ず評判の良い店のスイーツを買ってきてはひとりで食べている。 その様子を見ていろ、さもないと……と毎度こちらを脅し、愉悦に浸りながら菓子を頬張り、感想を伝えてくる彼に、最初の頃はスイーツが乗った皿を顔に勢いよく押しつけてやろうかと思うほどに苛ついたが、ダイエット生活が軌道に乗ると、精神が安定してきたためか、余裕をもって彼の食レポを聞けるようになっていった。 竜士は面白くなさそうだったが、瑛汰はそれが面白かった。竜士に負けず劣らず、自分も良い性格をしていると思う。コンビニで買った無添加無糖の野菜と果実のスムージーを飲みながら、不機嫌そうな彼を見て涼やかに笑うのだった。 そうして月日は流れ、季節は冬となり、新年を迎えた。 年始は毎年、大学時代のチームメイトと大井町に集い、箱根駅伝に出場する母校を応援するのが恒例となっていた。1月2日の早朝、辺りはまだ夜の闇が色濃く広がり、突き刺すような鋭い寒風が吹くなか、瑛汰はテキストチャットで知らされたいつもの集合場所へと到着した。 厚手のダウンジャケットに防寒に優れたマフラーをしっかりと巻き、裏地起毛のスパッツの上にスウェット地のボトムを履いて、ゴツゴツとスノーブーツと去年の誕生日に竜士から貰ったカントリー調のニット手袋を装備した姿で、旧友たちを探す。この凍てつくような寒さの中、ペラペラのランニングウェアで箱根路を走る後輩たちに申し訳ないと思いながら、毎年、同じような格好でこの場所に来ていた。

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