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それから2

懐かしい顔はすぐに見つかった。同じく完全防寒した服装で缶コーヒーなどを飲んでいた3人の旧友は皆、瑛汰と同じく陸上を辞めて民間企業に勤め、私服でも年齢相応のサラリーマン臭を醸し出していた。 そんな彼らのもとへ、駆け足で向かう。「モリタク、翔平、よっちゃん!」と呼べば、3人は弾かれるようにこちらを向いた。 「おー、えーた! 久しぶり!」 「あぁ、明けましておめでとう」 「おう、おめでと」 「今年もよろしくなー」 例年どおりのやり取りだった。それから、決まって翔平が、「そうだ、新年会やらなきゃな」と言い出す。それに対し、瑛汰たちはノリよく賛同する。いつもと同じだ。 「――じゃあ、2週間後の金曜日な! 店決まったら連絡するわ」 「サンキュー」 「その日だけは是が非でも定時で仕事切り上げねーと」 「モリタク、相変わらず忙しいのか?」 「前ほどじゃねーけどな。ウチ、売り上げ落としてっからさ」 「マジ? 電機メーカーも大変なんだな」 「えーたとよっちゃんのところは安泰だろうな、羨ましいぜ」 「俺は家庭が安泰じゃないわ」 「え? なになに、よっちゃん。嫁さんと何かあった?」 「新年会で話すわ……てかさ、えーた」 「ん? どうした?」 よっちゃんの猫のような目が、瑛汰の全身をまじまじと見つめる。なんだ、どうしたと不思議に思っていると、よっちゃんは最後に瑛汰の顔を見て、「やっぱり……」と感心したように呟いた。 「お前、かなり痩せたな」 「あ……!」 「それ、俺も思った」 と翔平。「顔がだいぶすっきりしたよなーって。後、脚が引き締まってるのが分かるわ」 「マジで? えーた、ちょっと脚触らせて!」 モリタクが、こちらの承諾もなしにボトム越しに太ももやふくらはぎをペタペタと触ってくる。 「……うわっ、本当だ! ランナーの脚に戻ってる!」 3人は高揚した表情だった。 「いいなぁ、羨ましい!」 「本当にな。前に飲んだ時と身体つきが全然違う」 「まさか、大会に出んの?」 「あ、いや……出ないけど」 苦笑しながら答えると、3人は揃って「えー! もったいねー!」と声をあげるので、苦い笑みは深くなる。が、内心では小躍りしたくなるほどに嬉しかった。 2ヶ月と少し前から始めたダイエットの結果、体重は約10キロも落ちた。最も気になっていた腹まわりの贅肉がすっきりと落ち、かわりに薄く筋肉が張った。 現役時代には及ばないが、すらっとした体躯になり、最近は会社でも「那智くん、痩せたねー」と言われることが増えた。表面上では、「そうですか? ありがとうございます」と淡々としているが、胸のうちでは何十回とガッツポーズをしていた。 陸上競技に打ち込んでいた時もそうだったが、目に見えるかたちで努力が実るのは、たまらなく嬉しい。苦しみや辛さはあるが、その分、大きな達成感に繋がっていく。今回のダイエットもそうだった。 以前の自分と同様、少なからずだらしない体型になった友人たちと共に、駅伝会場へと向かう。その間も「どうやって痩せた?」とか、「なんで鍛えてんだ?」などと訊ねられ、瑛汰は少しばかり自慢げに、かつ涼しげに笑いながら、彼らの質問に答えていた。

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