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誰がため?1

その週の土曜日の夜。自宅のベッドで竜士と縺れあっていた。 事が終わり、瑛汰は汗みずくの裸体をぐったりとさせ、ぼうっとしていた。乱れに乱れた呼吸を整えるのに合わせ、胸板が大きく伸縮する。生成り色の素肌に浮いた汗の粒が、重力に従い垂れ落ちていく。 先ほどまで好き放題にされていた下腹部を右手で撫でる。未だに竜士の一物がこの下にいるような感覚があり、身体の芯が熱く震えていた。物足りないわけではない。余韻に浸っているだけだ。 ……今夜も、物凄く良かった。隠微な駆け引きなど一切なく、「おい、ヤるぞ」と情緒やムードのない相手のひと言で始まった行為だったが、頭がぶっ飛びそうなほどに感じて、めちゃくちゃになった。 全身が性感帯となり、竜士に触れられる部分はどこも気持ち良くて、はしたないまでに善がってしまう。 竜士は竜士で、終始ふにゃふにゃに溶けたバターのようなだらしのない顔で、懸命に自分を求めてくる。そういう時だけは可愛い。それ以外の時は、可愛さの欠片もない。 セックスだけは非常に相性が良い。性格面での相性がマイナス100ならば、そっちはプラス100だ。瑛汰のなかで竜士との関係は、そういったプラマイゼロで成り立っていた。 汗がひき、呼吸が落ち着いてくると、重ったるい眠気にのっそりと襲われ始める。完熟したトマトのようにぐじゅぐじゅになった頭が、ぼうっとしてくる。まばたきをする度に、上まぶたがとろんとろんと重くおろされ、なかなか上がろうとしない。 ……シャワーは起きてから浴びることにした。今夜はもう、このまま眠ってしまおう。そう思い、瑛汰は布団を被ろうとした。 その時だ。 ふいに腹に何かが這い、そのしめったぬくもりに閉ざしたまぶたが上がった。腑抜けた視線を向ければ、同じく裸で横になっていた竜士が、こちらも至極眠たげな表情で瑛汰の腹を撫でていた。 「……痩せたよな、お前」 ぼそっと言われた言葉に、自然と口角があがる。 「あぁ、いい感じになってきた」 竜士の手のひらが、薄く割れた腹筋にしっとりと吸いつくのが心地よかった。 そうだ、俺は痩せた。裸になるとそれがよく分かる。以前と比べて全体的に横幅が狭まり、肉体の密度は高まったように思う。どことなくだらりとしていた二の腕や太もも、背中、そして腹の肉は、羊腸にぎゅっと詰めたかのようなハリと硬い弾力を取り戻した。それでいて軽やかに、しなやかに身体は動くようになり、現役時代にはまだまだ及ばないが、毎日のジョグでは相当速く走れるようになっていた。 気分がとても良かった。眠気も相まって頭も身体もほわほわとし、何だか暖かい。 もはや、餅のような腹部だった頃が懐かしいと、口元の笑みが色濃くなった。 ……あ、そうだ。と瑛汰は2ヶ月前――敗北感と罪悪感に苛まれながら、絶品のアップルパイを食べてしまった時に決意したことを思い出した。痩せたら、別居したいと伝えるんだった……。 が、セックスの後ではあまりにも空気が読めていないし眠たいし、それは後日で……と思いながら欠伸を噛み殺していると、竜士はふいと目を伏せ、なぜか悲しげな表情になった。えっ、なんだ、どうしたと驚き、彼を見つめる。 少しして、竜士がため息をついた。 「俺が言ったからか?」 「……え?」 「お前の腹、もちもちしてるって言ったの、気にしたんだろ?」 その通り。あぁ、その通りだった。「だとしたら?」

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