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目撃1

翌週金曜日の夜、年明けに入社した中途社員の歓迎会も兼ねた部署の新年会が開かれた。その日ばかりは皆、定時で仕事を切り上げ、JR新宿駅近くのチェーン居酒屋へと集った。 飲み放題のメニューにプレミアムモルツが含まれていること以外には特出して評価できる部分がない、ありきたりなチープな店だった。金曜日ということもあり、明るい照明が灯る店内はどこもかしこもかしましかった。 どんちゃん騒ぎが好きな同僚らが生ビールでギアを上げていくと、瑛汰たちのいるテーブルはひときわ賑わい、宴もたけなわがいつやってくるのやら、という状態が長らく続いた。 そんな中で、瑛汰はへべれけた上司や同僚に絡まれつつも、ここでも野菜や肉だけを口にし、渇いた喉を烏龍茶で潤していた。 同い年だという本日の主役から前職の話を聞きながら、相手のビールジョッキに延々とプレミアムモルツを注ぐことは忘れず、時折、烏龍茶とプレミアムモルツのちゃんぽんを作ろうとする同僚を制しながらも、盛り上がりの中に溶け込んでいた。 やっとのことで幹事が「宴もたけなわですが……」と切り出したのが21時半頃。一本締めののち、ぐちゃぐちゃに乱れたスーツの上にコートを羽織り、酔いどれ達は店を出る。瑛汰ひとりが素面で、辺りの酷い有り様に苦笑しながら、真冬の夜風に当たり身を震わせていた。 「なちー、お前この後どーすんの? カラオケ? カラオケ行かね?」 赤い顔の先輩が勢いよく肩を組んでくるので、苦笑を濃くしながら、「うーん」と悩む。正直、カラオケという気分ではなかった。が、自分達のやり取りが耳に入ってきたのか、近くにいた本日の主役が濃厚な酒の臭いを漂わせながら「カラオケ、いいですね!」と乗っかってくると、先輩は非常に喜んだ。 あぁ、これは是が非でも行かなければならないかといささか肩をすくめる。けれども、先輩も主役も所帯持ちだ。終電までには帰らせてもらえるだろう。それに明日は休みなので、早起きする必要もなかった。 「じゃあ、行きましょうか。広川さんの奢りで」と冗談を言いながら、瑛汰は何気なく夜の繁華街へと視線を流した。 まるで、瞬間冷凍された鮮魚のように身が固まった。 視線の先――交差点の向こうに見覚えのある人物がいる。 竜士だ。黒のチェスターコートに臙脂色のカシミヤのマフラーを巻いた彼は、会社の同僚らしき人々と飲み屋の前でたむろしていた。 彼も今夜は会社の飲み会だと言っていた。そうか、アイツも新宿で飲んでいるのか……と、思えたら良かったのに。

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