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目撃2

こちらに右半身を向けて立つ竜士の視線の先には、少しふっくらとした体つきの背の低い美女がいた。 チョコレート色のロングヘアに、目鼻立ちがぱっちりとした色白の女性だった。歳は自分達よりも少し若いだろうか。ネイビーのロングコートを纏う身体は柔らかな丸みを帯びており、黒のタイツを履いた足には程よく肉がついていた。 彼女は自分より頭ひとつ分以上は高い竜士を見上げ、愉しげに笑いながら何かを喋っていた。竜士も彼女につられ、破顔している。快活としたスポーツマンらしい笑みだった。周りに同僚らしき人達がいるにも関わらず、ふたりで談笑していた。 ふたりきりの空間ができあがっている、ようだった。 それを目の当たりにし、瑛汰は心臓が握り潰されそうな思いに突き落とされた。思わずよろけそうになるも、場所や状況を思い出し、ぐっと踏ん張る。が、彼らから視線を離すことはできずにいた。 先週のセックスのあと、竜士は言っていた。「好きになったら体型なんて気にしない」と。 けれども、アイツはやっぱりああいう子がいいんだ。好みなんだ。 あんなに楽しそうな顔して笑ってるのが、何よりもの証左だった。 ……あの子に惹かれているのだろうか。 だとすれば、俺は……。 その後、瑛汰は同僚らと近くのカラオケ店に入った。 けれども、元々乗り気ではなかった上に、先ほど目にした光景にひどく狼狽し悄然としていたため、1曲2曲歌ったあたりで「体調が悪くなってきた」と嘘をつき、先に抜けさせてもらった。同僚らが心配そうに見送ってくれるのが、申し訳なかった。 自宅の最寄り駅で電車を降りたあと、自宅近くのコンビニに寄った。 吸い寄せられるように生菓子の陳列棚へと向かい、目に留まったそれらを次々とカゴに入れていく。レジへ行けば、大学生くらいの男性店員がぎょっと目を向き、カゴの中身と瑛汰を交互に見た。 その視線が内心とても居た堪れなかったが、瑛汰は澄ました表情でキャッシュトレイに四方が廃れた五千円札を乗せ、レジスターの表示をぼうっと見つめる。1,342円のお釣りと白いビニル袋たくさんに詰められたスイーツを無造作に受け取り、コンビニを出ると、逃げるように自宅へと帰った。

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