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自棄
冷え冷えとする部屋の暖房を入れ、脱いだコートをダイニングテーブルの椅子に乱雑にかけ、どかっと座る。ネクタイを剥ぎ取るように外しながら、卓上に置いたレジ袋に手を入れ、買ったお菓子を取り出していった。
いちご大福、いちごのクレープ、一切れサイズのロールケーキ、シュークリーム、きなこの餡蜜、その他諸々……。ざっと見たところ10種類以上は買い込んでいた。
それらの中から、瑛汰はまずカスタードクリームといちごが挟まれたワッフルが3つ入ったパックを手に取り、蓋を開けて中身を頬ばった。
久しぶりに口にする甘い菓子は、コンビニスイーツ特有の安っぽくて作られた味や食感がするものの、美味しかった。今が旬のイチゴは大ぶりで甘酸っぱく、ねっとりとしたカスタードクリームとの相性が良い。ワッフルが少しパサついているが、厚みと柔らかさがあって食べ応えがあった。
これまでの努力を無に帰す行動に虚脱感を覚えながらも、手と口の動きは止まらない。
あっという間に3つとも食べ終え、次にきなこの餡蜜に手を伸ばす。パクパクと急いで口に運んでいったせいか、やや過剰とも言える甘みに喉が渇きながらも、器型の容器を綺麗に空にし、一緒に買ったカフェラテで口内を潤す。
そうやって次々と、貪るようにスイーツを食していく。
どうしようもないほどの焦燥感を抱きながら。
竜士と距離を置きたいと思っている。
そのはずなのに、彼が自分から離れていくかも知れないと思うと、怖くて仕方がなかった。
新宿で目にした光景が脳裏に浮かんで離れない。竜士の好みを地で行くような女と、彼の気さくな笑顔。にこやかな雰囲気。俺にはあんな風に笑ってくれない。あんなにキラキラとした空気に、ふたりだけで身に投じたこともない。
……俺とは、そんな風にならない。
竜士は、意地悪だ。好き勝手に瑛汰を振り回し、それを愉しむ性悪だ。そういうところが嫌だと言ってもまったく直そうとしてくれない。
……俺とは、身体の相性だけがいいからってだけで一緒にいるんだろう。
アイツにとって俺は、ただの都合の良い相手なのかも知れない。
俺をその気にさせるために、「付き合う」と言っただけで。自分が好きな時に俺を抱くために、一緒に暮らしているだけで。それ以上の感情は持ち合わせていない。
……きっと、そうなんだろうな。
胃の腑にお菓子が詰められていくのに合わせて、心が重く苦しくなっていく。大きな鉛が胸の中に埋まっているかのようで、たまらなく不快だった。
久しぶりに大好物をめいいっぱい食べているというのに、全然幸せじゃない。顔はひどく強ばっていたし、咀嚼物を嚥下する度におのずと溜め息が漏れ出ていた。
……それでも。
それでも、俺は……。
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