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ツケ
胃袋の調子を考慮せず、次から次へとお菓子を口に運び続けたツケが回ってきた。
6つ目のスイーツを食べている最中、むかむか、むかむかとしていた腹がついに悲鳴をあげ、のたうち回った。込みあげてきた嘔吐感に瑛汰は焦り、よろよろとした足どりでトイレへ駆け込んだ。
便座の蓋をあげたと同時に、汚い声をあげて吐瀉物をぶちまける。胃液と混ざり合った食べ物は異臭を放ち、便器をどろどろに汚していく。
眉間に深い皺を寄せ、顔じゅうに脂汗を滲ませながら、瑛汰は吐き続けた。まなじりに浮かんだ生理的な涙が頬を伝っていく。
便器から顔をあげることができず、手探りで洗浄レバーに触れ、吐瀉物を流す。渦となって排水管へと消えていくそれをぼんやりと見つめながら、瑛汰はほとんど胃液だけとなった残りのゲロを出しきり、トイレットペーパーで汚れた口周りを拭った。
……最悪だ。
また、食べないと……――
「瑛汰?」
背後から声がした。項垂れた顔をもたげ、振り向くと、開けっ放しにしていたドアの前に竜士が立っていた。驚いた表情を浮かべながら瑛汰のそばに寄り、床に膝をついて、背中に手を置いてくる。
「おい、大丈夫か? 飲み過ぎか? ……いや、お前に限ってそんなことないか」
竜士を、ぼうっと見た。帰宅したばかりなのか、彼は防寒着をまとったままだった。真冬のしんとした空気が彼を分厚く包んでおり、その匂いはまるでハッカのようだった。
「……あ」
ぼうっとしてる場合ではなかった。鈍い痛みが燻る頭の中に、例の光景が浮かんでいた。瑛汰は顔をしかめるとトイレットペーパーを便器に流し、よろりと立ち上がる。竜士が身体を支えてくれたが、その手を払いのけ、トイレから出る。
「ダメだ……食べないと……」
「へ?」
「また太らないと……」
お前が離れていってしまう。
ダイニングに戻った瑛汰は、テーブルの上に置いたままだったお菓子に再び手を伸ばした。が、それを竜士の大きな手で阻まれる。手首を掴まれ、強引に彼の方へと向かされてしまった。
竜士は訳がわからないといった表情になりながら、咎めるように瑛汰を睨んでいた。その瞳の鋭さと力強さに思わず怯んでしまい、身体が固まる。
「……あ」
「やめろ、また吐くぞ」
今度は竜士の手を払わなかった。おとなしく手を引っ込めれば、彼の尖った目つきは解かれ、表情もふっとほぐれた。「ソファーで休んでろ。水持っていくから」と言われ、素直に従う他なかった。
竜士はダイニングテーブル上のゴミやお菓子を片づけると、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、リビングのソファーでぐったりとしている瑛汰を元へやって来た。ペットボトルの蓋を開けてから、渡される。冷えたそれを飲めば、体内に潤いが巡っていくのを感じ、心地よかった。
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