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竜士という男1

脂汗が引き、胃のむかつきが落ち着いたところで、ようやく「ごめん」と謝罪の言葉を漏らす。竜士は呆れた表情を見せた。 「なんなんだよ、お前。あんな量のお菓子買い込んで、気持ち悪くなるまで食べ続けたのか? 痩せるために絶対食わねーっつってたのが、一体どうしたんだよ」 水を半分ほど飲んで蓋を閉めた後、三角座りをし、俯いた。決まりが悪かった。黙っていると、竜士の手が伸びてきて、頬をつねられる。痛みで顔が歪んだ。 「っ……痛……」 「おい、答えろって」 竜士はしかめっ面で語気を強めて言った。「俺が何かした? 言った? 言ってくれねーと分からねぇよ」 ……この男は、本当に強引だ。けれども、弱っている自分と向き合ってくれるほどには優しかった。 いや、本当は面倒くさいとでも思っているに違いない。帰宅したら同居人が暴飲暴食で戻しているなど、迷惑きわまりない。……これ以上、面倒なことを言い、竜士を困らせたくない。愛想を尽かされたくない。 「瑛汰」 依然、怒声に近い口調だった。「俺のせいなんだろ? だったら、ちゃんと言ってくれ。いつもみたいに好き勝手に怒鳴り散らせばいいだろ」 瑛汰はかぶりを振った。今夜はとてもそんな風にはなれない。……けれども、このまま黙秘を続けても、胸襟を開いても、どちらにしても竜士とはダメになりそうだ。 ならばいっそのこと、胸にある鉛の思いをすべて晒け出してもいいのではないか。 「……新宿で、お前を見かけた」 喉奥から出てきた声は低く掠れ、悄然としていた。感情がここまで声色にあらわれるのは珍しいことだった。 竜士は片眉をくいっとあげ、瑛汰を見る。 「あぁ、新宿で飲み会だったんだよ。てか、お前もいたの?」 「いた。俺も新宿で飲んでた。……お前、女の子と楽しそうに喋ってたろ。お前好みのちょっとぽっちゃりとした、可愛い子」 少しの間があったのち、竜士は「あぁ」と合点がいったように声を漏らした。それから、いつもの調子でニヤリと笑みを浮かべてくる。 「なるほど、嫉妬したんだ?」 ……その通りだ。だが、「そうだ」と口にするのが癪だった。無言のまま目を伏せていると、大きな手で頭をわしゃわしゃと掻き乱された。

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