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竜士という男3

「けど、俺もお前に負けないくらい馬鹿だ」 そのひと言に、眉間がきつく寄った。えっと声をまろび出て視線をあげると、竜士は何故か決まりの悪そうな表情で目を伏せており、眉間の縦皺がさらに深くなる。 「……竜士?」 「いいか」 竜士は瑛汰の目をキッと見据えると、ひどくむすっとした声で、こちらの胸を突き刺さんばかりに言う。 「普段はこっぱずかしいから言わねーだけで、俺はお前が好きだ。太っていようが痩せていようが、その気持ちは変わらねぇ。……だから、不安にさせて悪かった」 「……え」 「心配すんな。一緒に暮らすって決めた時にはもう、一生離さないつもりだった」 「え……、え……っ!?」 動揺しっぱなしだった。そのあまり、脳がぐわんぐわんと上下左右に好き放題揺れているようだった。何がどうなっているのか訳がわからず、目を白黒させていると、小さく舌打ちをした竜士に噛みつかれるようにキスされ、ますます動揺した。 けれども、触れた彼の唇は、存外に優しく瑛汰の唇を食み、その感触を噛みしめるかのようにじっとりとなぞってくる。後ろ頭を抱かれて引き寄せられ、体育座りの体勢を崩される。 竜士に身を寄せるかたちになり、瑛汰は彼の腕にすがった。うっすらと開いた視界には、変わらず怒ったような表情を浮かべて瞑目する竜士がいる。鼻息をわずかに乱しながら、大切なものを扱うような口づけを瑛汰に施し続けていた。 胸がきつく締めつけられるような、けれども満たされるような、よく分からない感覚に支配される中、おもむろにキスが解かれる。思考がふやけ、何も考えられず、ただぼうっと竜士を見つめていると、彼の長く逞しい腕が背後に回り、力加減など知らないとばかりに強く抱きしめられた。 「お前がどんな見てくれになっても、俺が突然巨漢になっても、いずれふたりとも老け込んでも、お前は死ぬまで俺のもんだ」 「は……え、あ……、え……」 竜士の腕の力に苦しみ、彼の力強い言葉に戸惑い、けれども心の中では、暖かく切ない彼への想いがスフレのようにモコモコと膨れあがっていた。 胸のあたりがぽんっと破裂しそうだ。そう思っているさなか、竜士がつと身を離した。息苦しさから解放され、新鮮な空気をおのずと吸い込んだ瞬間、額に鋭い痛みが弾け、思わず「いだっ!」と呻き声をあげてしまった。 「おい、日本語喋れ」 デコピンした人差し指を瑛汰の眼前に突き向けたまま、竜士は何とも気難しい表情で言った。焦れったさと熱っぽさを孕んだ声色だった。そこでようやく気がしっかりとしたものの、よろよろとよろけるような声しか出ない。 「りゅ、竜士……」 「それに、俺はお前のものだから。安心しろ。お前しか眼中にねぇから」 「ちょっ……急にそんなこと言われても……」 プロポーズとも取れる一連の言葉は、すべて捲したてるように言われた。気圧されながらもそう返せば、むっとした表情で「文句あるかよ?」ときた。 ……竜士はザルだ。いくら飲酒しても、顔色ひとつ変わらない。 彼の顔は今、かなり赤かった。温泉に浸かる猿と同じくらいに。そんな彼を見るのは初めてだった。瑛汰は唇をぎゅっと噛んだ。こちらまで何だか、顔じゅうが火照ってきた……。 「……ない」 瑛汰は伏し目がちになりながら、ぼそりと答えた。「お前を信じる」 「おう、是非そうしろ」 ぶっきらぼうに言い、竜士は一度こちらから顔をそらした。が、数秒してまたこちらを向き、「こんなこと、あと数年は言わねーからな」とぼそりと付け足してきた。 「……是非、そうしてくれ」 今の自分はきっと……、いや絶対、物凄くひどい顔をしているに違いなかった。

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