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素直になれない男1
昨晩に嘔吐したせいだろう、「なんだか調子が優れない」と瑛汰は言い、ベッドの中から出てこようとしない。仕方ないので、今朝は自分が朝食を作ることになった。
瑛汰ほど上手くはないが、料理はできる。今日も寒い1日になりそうだったので、すりおろした生姜とたっぷりのネギを入れた卵雑炊を作った。
過食により荒れた胃でも、これなら消化できるだろう。常備している胃薬も食卓に置いた。竜士は青白い顔の瑛汰を半ば無理矢理ベッドから引っぱりだし、ふたりで揃って食卓につく。
少し遅めの朝食が始まった。
「食える?」
竜士は、自らが作った造作もない朝食をぱくぱくと食べながら、向かいでのろのろと食事をする瑛汰に訊いた。四六時中、年中無休で健康かつ大食漢なので、今朝も健全に腹を空かせていた。瑛汰が食べられない分は自分が処理すれば良いが、少しでも食べさせて体力を回復させたいとも思う。
「……多分」
「あっそ。なら食え」
力のない声で答えた瑛汰に、竜士はそっけなく言い、食べ進めていく。……本当はもっと、思い遣りのある言葉をかけるべきなのだと思う。分かっている。本当は優しくしたいと思っている。
けれども今更、どうすればいいのか。分からないのだ。
好きな子には意地悪をしたくなる質だった。その部分だけは餓鬼の頃から変わらない。
だから、あの手この手で瑛汰を苛めるのが好きで、どうしてもやめられない。それで非常に勝ち気な彼が自分に牙を剥いてくるのも、たまらなかった。激昂する彼を見ていると、変な話、ぞくぞくと劣情が育まれていくのだ。
歪んだ性癖だと自覚している。これまでの恋愛が一過性のものとして終わっていった原因のほとんどが、そこに行き着くことからも、明らかだった。
だから、このままではいけない。
瑛汰だけは、是が非でも手離したくない。
そう思っているのに、言葉や態度で素直に示せないことが、ひどくもどかしかった。昨夜の件で、その思いはますます積もったのだった。
「――……ま、太ろうが痩せようが好きにすればいいけど」
雑炊のほとんどを平らげ、温かい茶を飲んだところで口を開けば、レンゲですくったものをちびちびと食べていた瑛汰が、のっそりと顔をあげる。痩せてすっきりとした顔の輪郭が今はげっそりとこけて見えるが、先ほどよりは顔色が良くなっている。それに内心ホッとしながら、言葉を続けた。
「おやつは、一緒に食おうぜ」
「……え?」
何だ突然と言いたげに、瑛汰が目を開いた。それに対し、いけないと思いながらも、そこはかとなく気恥ずかしいせいで、ついついぶっきらぼうな物言いになってしまう。
「俺ひとりだけ美味い菓子食って愉悦感を味わうのもいいけどよ」
瑛汰は弱々しくも呆れた表情を浮かべた。
「性悪……」
「お前と食べた方が美味いに決まってる」
涼しげな中に気だるさを含んだ切れ長の目が、再び見開かれた。それから、照れくさいのかむすっとした顔になる。頬の血色が一気に良くなったのを確認すると、竜士は瑛汰から視線をはずし、最後のひと口を胃の腑におさめた。
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