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恋と嘘と現実とー49
―パンッ―
叩かれた左頬がヒリヒリ痛む。
目の前には寧音。
涙を流して僕を睨んでいた。
「…貴方を護って治夫は怪我してばかり…消えてよ…治夫の前から居なくなって!!」
そう叫んで走り去っていった寧音に、僕は何も言う事ができなかった。
…確かに…僕を庇って治夫は二度も怪我をした。
治夫に近付かない方がいいのかもしれない…。
本当は、寧音の言う通り治夫の前から消えた方がいいのかもしれないけど…卒業するまで、それは無理だから…。
…大丈夫…。
治夫は僕に関する記憶がないのに、僕を庇ってくれた。
自分が大怪我をするかもしれないのに。
記憶をなくす以前と同じように、僕を大切に思ってくれている。
それだけで、大丈夫。
治夫と離れても、大丈夫。
だから、もう…寧音の言う通り治夫の側には近付かない。
親に頼んで、卒業を待たずに転校させてもらおう。
僕程度の頭でも、どこか入れる所を探して。
高校を卒業すれば、この街を出る事になるし…治夫と擦れ違う事すらなくなるだろうから。
…だから…心の中で思うくらいはいいよな。
それくらいは許してもらおう。
…許してくれるよな…。
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