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瞳の中、君にー12
隼人の苦しそうな顔と声から、合意とは思えない。
かといって、隼人が抵抗している素振りがない事から、無理矢理とも思えない。
苦しそうな隼人に気付いているのか、いないのか…松山は隼人の腰を掴んだまま、目を瞑って腰を振っていた。
その光景を見た俺の頭に、血が登る。
―寧音がいなければ、中に押し入り、隼人と松山を引き剥がして松山を殴っていたかもしれない。
寧音に腕を取られハッとした俺は、そのまま…寧音に腕を掴まれたまま…その場を後にした。
「…分かったでしょ?隼人は彼と付き合っている事を知られたくなくて、治夫を避けていたのよ」
…隼人が松山と…?
俺は寧音の言葉に、納得する事ができなかった。
隼人の苦しそうな顔が、思い出される。
自分の快感だけを追い求めているようだった松山の顔も…。
二人が付き合っているなんて、嘘だ。
先程の二人の行為を見なければ、寧音の言葉を信じたかもしれない。
それ程に、普段の二人は仲良く見えた。
俺が嫉妬する程に。
だが、先程の二人の行為を見た俺は、確信した。
例え、無理矢理じゃないとしても。
例え、合意の上だとしても。
二人は、付き合ってない。
好きでもないヤツと、隼人が何故、ああいった行為をしているのか…。
それは、分からない。
分からないが…先程の…松山に抱かれている隼人を見て、分かった事がある。
―俺は、隼人の事が好きだという事。
…友人としてじゃない。
恋愛対象として、好きなんだ…。
それを確信した途端…俺は愕然とした。
この恋は、決して実らない。
実る事は、ない。
「………治夫?」
俺を呼ぶ声に顔を上げると、訝し気に俺を見ている寧音と目が合った。
―途端。
俺は何も考える事なく、寧音に手を伸ばして抱き寄せていた。
「……治夫」
寧音は嬉しそうに俺の名を呼び、俺の背中に手を回す。
だが、俺の頭の中には隼人の事だけしかなく…。
胸の中には、嫉妬と怒りが渦巻いていた。
付き合ってないとはいえ、自分の快感だけを追って、隼人を抱いていた松山に。
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