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泣かないで、マイ・ラブ-1
-私が彼を初めて見たのは、放課後の図書室。
彼は夕日の射し込む窓際の席に座り、本を広げ…手紙を読んでいた。
優しい、愛おしいモノを見ているような…そんな眼差しに惹かれ。
端正な横顔。
小説の中の王子様みたいな彼の姿に、私の視線は釘付けになった。
楽しみにしていた恋愛小説(この恋愛小説は廃版になっていて、どこの本屋さんにも売っておらず偶然、この図書室にある事を知り…でも、貸し出しをされていて今日、返却されると聞き、今朝から読む事を楽しみにしていたのだ)を借りる事も忘れて片手に持ったまま、私は彼の横顔に見惚れていた。
そして。
どれくらいそうしていたのか。
-数秒間だったような気もするし、数時間か過ぎたような気もする。
静かな図書室に二人きり。
私と彼だけ。
やがて。
手紙を読み終わった彼が顔を上げると、私の瞳と彼の瞳が絡み合い-。
-なんて事はなく。
読み終わった手紙を丁寧に畳むと、綺麗な仕草で封筒に入れ、大切そうに広げていた本に挟み込み、席から彼が立ち上がった事で私の妄想も終わりを告げる
そして。
そのまま、私が見詰めている事にも気付かず、彼は私の目の前を素通りし、図書室の出口に向かう。
私が-大切そうに扱われているその手紙になりたい-と思いつつ、扉の向こうに消えていく彼の背中を見送っている事も知らず。
扉は閉まった。
彼の姿が扉の向こうに消えた時、私の頭の中で声が響いた。
これは“運命”だと-。
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