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7-唐揚げ

そういえば、職場の人とサシで飲むのは初めてだな。忘年会やら何やらイベントごとの飲み会は付き合いだから、予定が無ければ必ず参加していたけれど。 「ちょ、肉ばっか取らないでくださいよ。それ最後のやつでしょ」 「あ。」 箸を伸ばしていたチキン南蛮を目の前で攫われる。旨そうにモグモグと頬張る山本先生を非難の目で見ると、悪戯に目がきらめいて「オイシ〜」などと煽ってくるので、最後の唐揚げを食ってやった。 その後も取り留めのない話をした。うちの美術部自慢と山本先生のバレーボール部自慢争いは白熱したし、前に分けてもらった弁当の話もした。一人暮らしで自炊しているらしく、コンビニやファストフードで済ませがちの俺は素直に感心。他にもレンジで作れるかぼちゃの煮物の話、俺の制作物の話、などなど。 「…でも、三橋先生てもっと淡白な方かと思ってました」 賑わっていた飲み屋も客が減り始める時間になった。 不意に何を言い出すかと思いきや、二杯目のジョッキにほとんど中身がない。どうやら酔うと本音が出るタイプらしい。彼の場合、常に本音で喋っていそうだが。しっとりとした口調で切り出した山本先生は、その柔和な顔を微笑ませて俺を眺めて、ポツポツと続ける。 「俺、同期だし、すっげえ仲良くなりたかったんです。いつも、挨拶は、してくれますけど…メシとか、誘っても全然なびいてくんないし…。だから、今こうやって話せてるの、嬉しいです。今日は、御馳走になっちゃいますけど…今度また、誘ってもいいですか?」 俺も、最初抱いていた印象から少し認識を改める必要があるな、と思った。Ωだから、そう、俺は体も華奢で一目でΩと分かるような容姿をしている。それ故に、未だ残る差別というものもそれなりに体感している。好意的な態度で近づいてくる人間は、まず警戒していた。 「ぜひ、またご一緒しましょうか」 そう口にした瞬間、フッと肩の力が抜けた気がした。 今夜は、風呂で一度抜いて終わり。

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