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10-ごはん
「お受けする方向でちょっと考えてみますね。上から何か連絡が来たら教えてください。」
「ありがとうございます。毎日ごはん作りますね!」
いや。そんなに食い意地張っててお受けしたワケじゃないですよ。なんてことは、言えない。
明日のメシがなにかとか、考えてない。
グラタンがいいな。
いやいや、いや…。
「あら、三橋先生。風邪治られたのね。よかったわ」
「教頭、ありがとうございます。おかげさまです」
思わぬ人物からの呼びかけに、2人して椅子から立ち上がる。
教頭は、ほっそりとした体型で金縁眼鏡の年配の女性だ。
教頭はいいのよと手で示した後にっこりと微笑んで、茶目っ気たっぷりに続ける。
「ユニフォームの話、聞いちゃったんだけどね。三橋先生がデザインしてくださるのかしら。」
「ハイもちろん。まかせてください」
「三橋先生は副業でデザインもなさっているそうだし、私もいい考えだと思うわよ。楽しみにしてるわね」
状況反射で答えてしまった。
手伝いってより、仕事だなこりゃ。デザイン料とか出んのかなあ。
帰る前に美術室の裏の、美術準備室へ寄る。
ここには授業で使用する石膏像とか鳥の剥製とか、イーゼルに、生徒から預かっている作品、美術部の製作中の作品などが置いてある。まあ目的はそれではなくて、資料置き場からレタリングの教材を一冊抜き出して捲っていく。
プロならプロらしく専門書でも読めという話ではあるが、あいにくと俺はデザイン専攻ではないのだ。
こういった教材は学生用で基礎の基礎が乗っているから、わかりやすくて案外役に立ったりする。
デザインの副業、なんて教頭は言っていたけど、俺日本画だし。デザインもかじってはいるけれども。ホラ、教師だから、色々サワリくらいは知っとかないといけないから。挿絵描いたりもしてはいるけど、日本画だし。
残念なことに、本にはほとんど役立ちそうな知識はなかった。
家に帰ったら色々調べてみるか。と言っても、本当にユニフォームを新しく作れるかどうかもまだ分からない。
適当に何個か案出しとくだけでいいや。
踵を返すと、パキッという音がして、なにかを踏みつけてしまった。
鉛筆だ。芯が折れてしまった。記名を見るが、書いていない。
ふーん。良いこと思いついたぞ。
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