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12-早退

「……!?」 その場で固まり、並んだ文字を凝視する。何度も読み返す。 …え、なんだって? 「は?…は?は?は?」 血の気が引く、とはこのことか。 攻撃的に節々が尖った筆跡は、全く書いた心当たりがない。 友人にもこんな字のやつはいない。 起き上がり、通帳などがしまってある戸棚に直行する。 中身は、ある。財布もある。ベランダの鍵なども見る。 次に、レシートが落ちていたソファ周辺を調べる。 なにか他に残していったものがあるかもしれない。 色々と洗濯してしまったために、調べられることは限られていたが、床なども丹念に見ていく。 よく分からんシミとかは俺のっぽい。 あとは、意識しないと分からないレベルで、嗅ぎ慣れない香りがする。 家の隅々、作品の数やキッチン、寝室なども徹底的に確かめてみたが、なにか盗られた様子は無かった。 あとはせいぜい靴の並びが変わっていたくらいか。 そこまで確認して、ようやくトイレに向かう。 「……」 今朝は想定外だったために、元より選択肢には上がらなかった。 腹が痛いということは、つまりは、そういうことかもしれない。 家中を見て回っている時、昨晩の淫夢がふいに頭をよぎった。 痛い腰、掠れた声、そして腹痛。 中出しされると腹を壊すというのは、聞いたことがある。 AVか、暇つぶしに見た漫画か、知り合いのΩがぼやいていたか。 情報の入手先は定かではないが。 手足は緊張で少し前から冷たく冷えていて、ズボンをおろすのにも少し手間取る。 便座に腰かける。 尻穴にトイレットペーパーをあてて、思いきり力む。 少ししてかすかに濡れたティッシュにためらいもなく鼻を近づけてみると、香りはよくわからない。 よく考えたら、分かるはずがなかった。 溜息を吐きパンツを上げようとした時、気がついた。 淡く、指の跡が腰の両脇についている。 「………」 便器のフタに背中を預ける。 まあ、十中八九あの夢は正夢、といったところか。 だって力んでも普通濡れたりしねーし。 なんもしてないのに腹いたくなったりしねーし。 100歩譲って、浣腸の湯が今頃出てきただけだとしてもだ。 狭い便所の天井を眺めて、途方に暮れる。 寝て起きたら犯されてました。 自宅で! あまりにバカげていて、突拍子のない想像だが、そうとしか考えられない。 そのままウォシュレット機能で浣腸を行う。 調子が元々良くないところにとんだ腸へのダメージだけど、しょうがない。 家の鍵を確認して内鍵までかけ、寝室で寝転がるとすぐに瞼が降りてくる。 家をひっくり返し回ったり尻を洗ったり、疲れてしまった。 体の調子は悪いし、眠いし、散々だ。 布団は柔らかく俺の体を包み込む。 うとうとと船を漕いでいると、チャイムが鳴った。 やべ、裸だ。 慌てて服を身につけモニターを確認すると、大柄な男が立っている。 モニター越しでも分かる、整った顔立ち。 なんだコイツ! 一瞬忘れていた疲労感がどっと出てくる。 なんなんだ、勘弁してくれ。 眠気を理由に居留守を使い、布団に飛び込みなおして、今日はおしまい。

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