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14-なろう

「そういえば、そろそろ発情期か」 掃除が終わり、まったりとソファで寛ぐ頃には、昼を過ぎていた。休日ってあっという間だなあ。 カレンダーを見ると、前回の発情期からちょうど3ヶ月まであと数日ほど。ズレは前後1週間くらいだから、いつ来てもおかしくない。 考えただけで気分がどんより落ち込むのはともかく、1週間前後家に引きこもることになる。学校が休みの時にぶちあたりそうなのは不幸中の幸いだろう。 ──薬あるっけな…えーと、注射器は一本ダメにしたんだった 薬箱を漁り、即効性のある注射器タイプの数を確認する。 毎日飲む錠剤タイプもそろそろ数が少ない。病院へ行ってもいいかもしれない。 あー面倒くせ。 掃除とエッチの二度疲れが程よく気持ちよくて、あんまり動きたくない。つーかこのまま寝てえ。 「…」 まあ、発情したらそんなことも言ってらんないよなー…。 のろのろとクローゼットを開ける。 考えるよりも先に、体に巻いたタオルを取っ払い、テキトーな服を身につける。 帰ってきたら、即行動した自分を褒めてメチャクチャにえっちしよう。出発進行。 そう、この時俺は、あんなことになるとは夢にも思っていなかったのだ。 薬を貰った帰り道に、引きこもる時用の食べ物や消耗品をしこたま買い込んだ。 ゼリー飲料系を中心に、水、インスタント食品、それから医療用テープに湿布など。薬局へ行けば揃う物ばかりだ。 帰り道を歩きながら、黒灰色の道路と、動作に合わせてガサガサ揺れるビニール袋を眺める。 あとは、学校と家族に電話して、それで準備は終わり。 ──あーあー、チンゲ。 ああ、黙ってると気分が落ち込むばっかりだ。 いや、体調悪くなるって分かってるのにハイな奴ってそれ、もう恋人がいるヒトくらいのもんでしょうけど。 番かぁ、番ができればイイのかなあ、俺も。 ステキなαの旦那サマができれば、少なくとも発情期からは解放される訳だし。 不意に、脳裏をよぎる、腰の手跡とメモ書き。 α、ねえ。 「チ、思い出しちった」 口の中で戯けて呟いてみたものの、ふわふわと足場の固まっていないような、そんな感覚は消えなかった。 「っつ!」 「うお、大丈夫?」 衝撃、ぶわりと鼻腔に広がる人工的な甘い香り。混乱気味に見上げると、整った顔立ちの男が視界いっぱいに目に入る。 「うわ、すいません」 「いえいえ」 あんまりジロジロ見るのも失礼なので、すぐに目を逸らす。 よく見ずとも分かる、溢れるこのカリスマ性は、αだ。 物の良さそうなダウンに思い切りめり込んでしまった。 頭を下げて脇を抜けようとすると、肩を掴んで止められる。 結構な力だ。なんだコイツ。 冷たげな印象の切れ長の目が、こちらを見下ろしていた。 「ぶつかったついでに、ちょっと頼まれて欲しいんだけど」

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