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14-なろう
甘んじて俺がブラックコーヒーを頼むと、ふーんと頷いて男はウインナーコーヒーを頼んだ。
「ああ、びっくりした。帰ってたら、後ろにずっといるんですよ。ぜんぜん知らない子で…」
こちらがなにか聞く前に、相手はポツポツと喋り始めた。
コーヒーがそれぞれに届けられると、どちらともなくそれを啜る。
男はカップを置くと、次にコーヒーの上に乗ったホイップクリームのてっぺんを掬い取った。それを口に運んだ後、憂鬱な表情を浮かべる。
「怖かった。本当にありがとうございました」
男がもう一度溜息をついた後、表情は元に戻っていた。
「名前を名乗ってませんでしたね。ゴミといいます。あいや、トラッシュの方じゃなくて、数字のゴに“あじ”のミ。君と同じマンションに住んでます」
「はあ、五味さん。俺は三橋です」
なるほど、同じ建物に住んでたのか。
表情に出ていたのか、五味が頷く。
「知ってます。うちのマンション、Ωの子は少ないから。三橋さんて言うんですね」
そして、ジッとこちらを見つめてくる。まるで何かを探るかのように。目が合うとにこりと細い目が潰れ、笑いかけられた。
改めて正面から見ると、思ったよりも年齢が若そうなことに気がつく。
ふーん、俺は同じマンションの人とかぜんぜん気にしたことねーけど、やっぱ目がイイと見える世界が違うんだろうな。
「よし、じゃあ俺はそろそろ帰りますね」
追っ手も撒けたみてーだしよかったよかった。
なんとなく良い気分になったしな。うん。
席から立ち上がろうとすると、五味もつられて立ち上がった。
「あれ、それで終わりですか?」
言葉の意味がわからない。
「んあ?」
「……あれ?まあいいか。それなら、またマンションで。今回のお礼はおいおい」
「いや、いいですよそんなの」
「いえいえ」
なにか呟いているようだったが、よく聞こえなかった。
彼はもう少しゆっくりしていくらしい。
連絡先だけ交換させられ、別れた。
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