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15-前兆
「あっ…?」
焦り。
えーあ、…?えっち、いや違う。うぅーっ…いっかいイってから……いや、ダメダメ。
…なにか、頼んでたっけ?
体を起こすと、急激な気分の変化からか、一度ふらつく。
どこか夢心地のまま寝巻きを引き上げモニターを確認すると、予想外の人物が立っていた。
『こんにちは』
「うおっ…。ご、五味さん…」
一発で頭が覚醒する。
モニターの向こうで、長身の優男が微笑んでいた。
『いきなりすみません。部屋番号をせっかく教えてもらったので、寄ってみたんですが』
「あ、あー…そっか……あは、いま起きたばっかりで…」
想定外の事態に、判断が鈍る。正直に(嘘を)呟くと、五味が肩を揺らした。笑っているらしい。そして、なにやら片手の手提げを持ち上げて見せてくる。
『あの、出掛けたらケーキを貰っちゃったんです。良ければどうですか?』
突然だがここで、昨日の話をしよう。
俺が帰宅してそう時間も経たない内に、五味からは連絡が来ていた。どうせあの場限り関わることもないだろうと高を括っていた俺には相当な衝撃だった。
『三橋さん、五味です。こっちにはもう彼女、いないみたいなんですが、マンション付近では見かけました?』
『いいえ、見なかったと思いますよ』
初めて来たメッセージはまるで探偵ごっこのようだった。
ファーストコンタクトこそすれ、五味は気さくな男のようだった。俺は帰ったのに、何度もコンタクトを取ってくる。それでなければ、案外小心者なのかもしれない。
『それは楽しそうですね!』
『良かったら今度うちに来てください。三橋さんが好きそうな映画沢山あると思いますよ』
すぐに帰宅するのは憚られるらしく、彼の暇つぶしに付き合っているうちに話の内容は逸れてしまっていた。
無事に帰れましたという連絡が来たのを最後に、昨日はシコって寝たのだった。
「…」
時は現在、午後3時。結局あの後、おやつと呼ぶにふさわしい時間帯に彼の家へお邪魔することになった。
こちらの準備は万端だ。しっかりと外出着に着替え、体も洗った。ヤル気かって感じだが、単純にアナニーの痕跡を消したかっただけである。
部屋の前で突っ立っている俺に気がついたらしく、部屋のドアがガチャリと開く。
「チャイムを鳴らしてくれたら良かったのに。どうぞどうぞ、三橋さん」
「あの…」
ドアを開けた風圧で微かにフェロモンが香り、五味が顔を覗かせる。
彼の顔を伺い見ると、目をぱちくりと瞬いて見返してくる。
「散らかってるかもしれませんが…。…あれ?入らないんですか」
五味は、壁ドンしてくる隣の部屋の住人だった。
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