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15-隣人
「お…。おいしいですね」
きれいに絞られた生クリームの真ん中に沈んだツヤツヤの苺を口にして、思わず感嘆する。
「良かったです」
ちらりと時計を見るフリをして相手を盗み見る。
結局、うながされるまま中に入ってしまった。
部屋が同じ階というのは、さっきウチに来た時に聞いていた。
すぐに部屋は見つかると言っていたし、さて、と部屋を出てまず手始めに隣の苗字を確認するまではルンルンだったのだが。
どうしてこうなった?
果物の無垢な甘酸っぱさにほんの少し癒されながら、再び相手の顔を伺い見る。今はちょうど、紅茶を淹れているところ。
「……あー、えー…、すごく綺麗な、お部屋デスネ」
混乱した頭で苦しまぎれに出した言葉は、事実だ。
シンプルに色味の整ったインテリアはとてもセンスが良い。間取りはうちと似ているけど、中身はまったく別物と言っていい。
しかし、俺が聞きたいことは別にある。
そう、壁ドンである。
まさかお隣さんと関わることになるとは思っていなかった。軽んじていた。ぬかった。後悔先に立たず。壁ドンされてからも今まで、正直なところ隣室の騒音騒ぎよりも自分の性欲のほうを優先していたことは間違いない。
それだけに、気まずい。
どうしたもんか、こういうのって、こちらから話したほうが良いものなのか。
フォークを握る手にじっとりと手汗が滲む。
リビングへ案内されて現在まで、五味の口からは“夜の騒音”なんて言葉はおろか、“となり”という単語すら出ていない。
まさか部屋の位置的にも壁ちがいってことはないだろう。
むしろケーキ食わねーかって家に呼んでくる、友好的にも見える不可解な対応である。
…いや待て、好意的にとらえよう。
…昨日の今日で、αがΩを、しかも自分んちに呼ぶ理由だろ?
俺のオナニーする声に興奮したから呼びつけてセックスしたい───とか!!
とんでもない考えにたどり着いてしまった。
こめかみを揉みほぐす。
落ち着いて、差し出された紅茶を一口飲む。
AVの見すぎか…いや、確実に、AVの見すぎだな。
うかがい見るのはやめて、相手を無遠慮に眺める。
まず、顔はバツグンに良い。なんてーの、ちょっと怖そうだけど、女が好きそうな顔?よくわかんねーけど、オーラがある。
ガタイも悪くない。身長も俺よりデカい。
αはみんなそうだろうって、そりゃーそうだけど。だいたい、αサマなんて間近で見る機会がない。教職はβが多いのだ。
そこまで見て取って、視線を逸らす。
あー、あー。俺ももうちょい、せめてちんこがでかけりゃな。
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