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うるさい。 “友達”が一人減り、久しぶりに寝るためだけに使っていた自宅に帰宅して、すぐに気付いたことだ。 原因は隣の部屋だ。 隣から、かすかに喘ぎ声が聞こえてくる。 すぐに壁を少しつついて注意してみたものの、さして効果がない。 不思議に思って耳を澄ませると、どうやら夢中で自慰行為に励んでいたようだった。 それからというもの、俺はひんぱんに騒音に悩まされるようになった。 新しい“友達”が中々見つからなかったことも相まって、俺が疲れて帰宅すると、隣の奴の喘ぎ声を否応なしに聞かされることになった。 そもそも、自分の帰宅がまばらだったことを考えると、もはやいつからこうだったのかも分からない話だ。 もうそろそろ、文句のひとつでも言ってやろうと思って、家に乗り込んだ。 なぜかその時鍵が空いていて、そこでまたド淫乱みたいな奴が頭悪そうに寝こけていて腹が立った。 ついでに少しハメてやったら、まあ良く啼いて喜ぶし、容姿も男にしてはかわいらしい。 及第点。新しい“友達”にちょうどいい。 それが、俺がそいつに下した評価だった。 「三橋さん…三橋さーん」 薬を盛った。 さすがに苦情の主に招かれたとあっては平常心ではいられないらしく、ここに来てからはそわそわと落ち着きがない。 あらかじめ仕込んである紅茶を飲ませることは簡単だった。 トイレに立った隣人の気怠げな返答が消えて、もう、しばらく経つ。 ドアを開けると、座り込んだ体勢の隣人がこちらに傾いてきた。 とっさに受け止めると、ずっしりと重い。 ぐったりとして熱い呼吸を繰り返している。 頬を軽く掌で叩くと、小さく呻いた。 「…はつ…じょ、…」 「は?ちょっと、大丈夫ですか」 「っ…、……はぁ、はぁ」 唖然として相手を見下ろす。 これは、想定外だ。 “ほんのり”その気にさせて情事に持ち込む予定のはずが、薬が良くない効き方をしたらしい。 盛ったのはただの媚薬だ。Ωのフェロモンは出ないはず。 現に鼻を近づけてみても、フェロモンはほとんど感じない。 ただ、この症状は確かにヒートに似ている。 なにか先ほど言いかけていたが、薬の効果と発情期を間違えたんだろう。 近くには空の注射器が転がっている。 俺を押しのけようと伸ばされた手を掴むと、ひどく高い体温がこちらに雪崩れ込んでくる。 「大丈夫、発情期じゃありません」 耳元で囁く。 予定外のハプニングではあるが、このままベッドインしてしまえばいい。 相手のほのかに甘い体臭を嗅いだおかげか、こちらまである場所へ血液が集まってきた。

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