170 / 584
31♡ 6P
31♡ 6P
「葉璃」
「………っ…っ…」
リビングの扉を背に腕を組んでる聖南が、いつからそこにいたのか、背後から優しく呼んだ。
この分じゃ、歌ってた事も泣いてた事もバレバレなんだろうから、俺は口を噤んだまま聖南の方を見られなかった。
「俺まるっと40時間くらい起きてんだよ。 葉璃が隣に居てくれないと眠れないから、早く来て」
「………はい」
ワガママな恋人はそれだけ言うとまたベッドルームに戻ってしまった。
夜中痛くならないように痛み止めを水で流し込んで、ミネラルウォーターを持ってベッドルームの扉を開けると。
「…………っっ」
すぐ目の前に聖南が居て、何も言わずにぎゅぅっと力強く抱き締めてきた。
突然の事に、持っていたペットボトルを落としてしまって、それは俺の足のすぐ横を転がっていく。
「お前がそう言うならもう何も聞かねーよ。 俺の傍にいる以上、葉璃を100%信じる」
「………ぅっっ……」
「でも、しんどくなって抱え切れなくなる前に言え。 潰れちまうから」
今すでに抱え切れてないよ…って喉まで出かかった。
いつになく優しい聖南は、怒るでもなく、ヤキモチを焼くでもなく、ただただ俺を信じると言ってくれた。
それがどんなに心穏やかにさせてくれるか、聖南自身はきっと分かってない。
深く聞かないでくれた聖南の背中に腕を回すと、さらに強く抱き締めてくれて苦しかった。
でも今は、痛いくらいがちょうどいい。
ほんの少しの間だけ、ツラい事は忘れさせてほしかった。
ともだちにシェアしよう!