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俺も聖南も疲れきってて、その日は清らかに抱き合って眠った。
翌日、生放送に備えて俺をダンススクールに送ってくれた聖南は、自分もリハーサルがあるからと一足先に局へと向かったようだ。
聖南はあれから何事もなく接してくれていた。
「葉璃を信じてる」の言葉は本物だったみたいで、どんなに気持ちが落ち着いたことか。
いざ本人を前にすると狼狽えてしまいそうでビクビクしていた俺に、佐々木さんは普段通りで拍子抜けだった。
大人ってすごい。
聖南も、佐々木さんも、無かったフリがうまいんだもん。
「じゃあ出発しようか。 がんばろうな」
時間いっぱいまで練習してた俺達は、佐々木さんと事務所のスタッフさんが運転する車二台に別れて乗り込み、テレビ局へと向かった。
あの日以来のメイクさん達がまたもや見事にハルカへと変貌させてくれて、俺はとにかくやる気を漲らせた。
今日は以前より衣装もメイクも派手目だ。
腕を出そうが足を出そうが平気だけど、やっぱりこの偽物おっぱいは全然慣れない。
「トイレ、行ってきます…」
「あ、一人で大丈夫?」
「大丈夫です」
「女性用入らないとだよ」
「わ、分かりました。 目閉じて個室入ります」
忙しそうな佐々木さんが薄っすら笑ってくれた事にホッとした俺は、声だけ掛けて女子トイレの個室に閉じこもると、胸に手を当ててたくさん深呼吸した。
緊張は当然してる。
相変わらず気が付いたら人という文字を飲み込んでる俺だけど、今日と明日、そして1月3日はハルカとして責務を全うしなきゃいけない。
春香のためにも、memoryみんなのためにも、佐々木さんや事務所の人達のためにも、memoryを応援してくれてるファンのためにも、絶対に失敗しないように頑張らないと。
デビューを控えた俺が、お客さんやカメラ、たくさんのスタッフさんに囲まれてのパフォーマンスが出来るっていうのは、恵まれてるんだと思う事にした。
上がり症の俺が少しでも緊張しないでいられるように、特訓できるから。
「ふぅ…………」
興奮気味なみんなの甲高い声が聞こえないから、本番前で集中したい時はトイレに閉じこもるっていうの、結構アリかもしれない。
ただ難点はハルカのままだと女子トイレに入らなきゃいけないから、個室から出たら一応目を瞑って歩くっていう気遣いが面倒だけど。
もうすぐ本番だってスタッフさんが言ってたから、そろそろ出ようと思って目を瞑り、手探りで入り口の扉まで来て、俺はゆっくりその扉を開けた。
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