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32❥ レッスン場でのmemoryの曲の練習が終わり、聖南がトイレに向かって数分、一階は探し切れなくて二階に上がるも、無い。 歩けど歩けど目的地に辿り着かなくて、やっぱ一階かと呟いて戻るとようやっと見付け、小走りで駆け込んだ。 それが何十分、何時間も経っていただろうか。 ちょっと離れたたった数分の間に、葉璃が見事にしょんぼりしてしまっていて、聖南はすぐに佐々木を疑った。 だが葉璃は、それ以上聞かないでと瞳をうるうるさせて佐々木を庇い、聖南に踏み込ませる事を許さなかった。 「俺の傍にいる以上、葉璃を100%信じてる」などと聞き分けよく大人の余裕を見せたが、正直、内心はやはりお決まりで、腸が煮えくり返っていた。 『あの眼鏡野郎……俺の葉璃に何を言いやがった』 暗闇の中、小さくデビュー曲を歌う葉璃の小さな背中が揺れていて、悲しんでいた。 いたいけな少年を悩ませ、苦しませるなんて、断じて許せない。 告白はされていない、と強調していた所を見ると、それは本当だろう。 だがそれに近い、それよりももっと重たいものを佐々木が葉璃に背負わせた気がした。 デビュー曲は片思いに悩む詞だ。 聖南が葉璃に想いを寄せていたあのツラくて切ない日々を思い出して、数時間で書き上げた。 アキラのアドバイス通り、世の中の片思いに悩む人皆に共感してもらえるように脚色はしたが、叶わない事前提の詞にメロディーをのせると悲壮感が深まる。 切なそうに、時折鼻を啜らせて歌っていたそれは、佐々木の葉璃への恋に重ね合わせたのかと思ったが違うだろうか。 『俺に言わないって事は、なんか思うとこがあんだろーな………』 とにかく自分の中で解決しないといけないと思っている葉璃に横槍を入れる事など出来ない。 何かとすぐに目くじらを立てていた自らを恥ずかしいと思うほど、葉璃は凛と聖南を見ているから…。 変わり始めた内面を認めてやりたい。 認めてやって、傍観して、葉璃がヘルプを出せばその時に初めて手を貸す。 葉璃が決めた事なら、それがたとえ失敗に終わると分かっていたとしても、好きにさせてやる。 聖南が関わる以上失敗などさせたくはないが、それが無ければ人間は大きくなれない。 籠の中で飼い殺していては、葉璃は弱いまま、何にも打ち勝てなくなってしまう。 デビューを控え、一般の職に就くよりもはるかに世間に晒される仕事なだけに、脆弱なままではいけないと思った。 聖南は大人の真似事をした。 すぐにでも佐々木の元へ行ってぶん殴り、葉璃を悲しませるなと言いたかったが、悩んではしょんぼりを繰り返す葉璃を尊重した。 聖南はこれでも、ものすごく我慢を頑張ったのだ。

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