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36❥ 6P

36❥ 6P 成田の運転する車で、聖南は後部座席に乗って足を組んで不機嫌をあらわにしていた。 「クソっ……あいつ干してやろっか」 「やめとけ。 すごく謝ってきてただろ? もう許してやれよ」 「許せるかよ! 動くなって何回も言ったのに」 切れた唇にリップクリームをこれでもかと塗りたくっている聖南は、未だ怒りは治まらないでいた。 あの後、麗々はマネージャーと共に詫びにやって来たが、聖南は許さなかった。 カップル撮影を断る、と言った事で編集担当まで慌てて走り込んできたが、その話は後日にしてくれと聖南は怒りのままに成田の車に乗り込んで、今に至る。 「セナ、怒ってるところ悪いが仕事の話な。 ツアー終わりにセナにミュージカルの話きてるけど」 「ミュージカル? 受けなくていい。 俺芝居ムリ」 「ミュージカルだから芝居は少しだぞ? 向こうサイドがぜひセナにお願いしたいって言ってきてるんだけど…」 そう言われても、聖南は芝居は大の苦手だった。 小学生くらいまでは舞台で頑張ってきたが、演じきる事が出来なくなってきたのを自覚してからは、ドラマも映画も舞台もミュージカルも芝居関係はオファーがきてもすべて断っている。 台詞を覚えて役になり切るという事の難しさは、聖南にとっては克服できない唯一の仕事だった。 「あ、…その話、恭也はどう」 「恭也君? どうして?」 「あいつのあの歌唱力と腹筋あれば舞台上でも問題ないだろ。 タッパもあるし。 あと、恭也の目利きすげぇから役者も向いてると思う」 「目利き?」 「そう。 葉璃の影武者、テレビ見てて一瞬で見破ってたらしい。 口パクもな」 「へぇ! 世間を騙せてる葉璃君のあの影武者を!」 まず、恭也があのパーティー会場の壇上で緊張していない様子だったのが、役者に向いてるかもと思ったきっかけだった。 その後、友達だからとあの完璧だった葉璃の影武者と口パクを見破っていたと知って、聖南の中で確信に変わった。 アキラとケイタのように恭也も、役者としての素質がある、と。 「恭也が受ける受けないは別にして、マネージャーに話してやってみてよ。 恭也が進路どうするかにもよるし、そのミュージカルの監督がどう言うかは分かんねぇけど」 「分かった。 セナの口添えって事を念押ししておくよ」 「その方がいいなら、俺の名前どんどん使っていいから」 先刻の怒りを削ぐ話題に、聖南の表情もいくらか穏やかになった事に成田はホッと胸を撫で下ろした。 聖南の面倒見の良さは兼ねてから分かっていた事なのであまり驚きはしなかったが、知り合って間もない恭也の事をも真剣に見てくれていると知って、見た目とは違ってやはり聖南は真面目だなと思わずにはいられなかった。

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