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39☆ 7・大塚事務所主催、仮装パーティー♡

 アキラも目を凝らして遠くを見ていると、人波からチラと覗いた白いうさぎの耳があちこちに移動していた。 「あれ誰だろ、うさ耳がぴょこぴょこしてる」 「あ? どれ?」 「ほら、あそこ」  そのうさ耳をセナに指差して教えてやると、隣で息を呑んだのが分かった。 「……っっ!」 「何、ハルだったのか?」 「……あぁ。何だあれ……めちゃくちゃかわいーかっこしてんぞ」  頷いたセナがゆっくりそのハルの元へ歩き出したので、アキラもそれに付いて行った。  恭也とはぐれたのか、不安そうにキョロキョロしながら移動しているハルは、白くて長いふわふわなうさぎの耳を付けていた。  恐らく不思議の国のアリスの、例のうさぎではないだろうか。幼い頃に観た記憶のあるコスチュームでウロウロする様は、確かにとても可愛らしかった。 「……葉璃」 「あっ……聖南、聖南さんっ?」  腕を取られて驚いたハルが、瞳をまんまるにしてセナを見上げて、こちらも息を呑んでいる。  アキラを見付けてペコっと頭を下げてきたが、うさ耳がセナの衣装に擦れてアワアワする姿に、セナもアキラもほっこりした。 「聖南さんそれ、何ですか? 海賊? 船長?」 「船長かどうかは分かんねぇけど、海賊」  ハルは見所が一味違う。  セナの仮装はひと目で海賊だと分かるのだが、「船長?」と付け加えられてセナも笑いをこらえている。  そんなハルはアキラに向き直って、また違う視点からの切り口で微笑まれた。 「アキラさんはお金持ちっぽいですね、似合ってます」 「何それ、俺お金持ちキャラに見えてたの?」 「はい、なんとなく……」  金持ちキャラとかウケる、と隣でゲラゲラ笑い始めたセナの小脇を突きながら、ハルの衣装の着こなしにひどく感動した。  当然ながらあのうさぎのように丸い鼻メガネはしていないし、コスチュームも今風なデザインで可愛くまとまってはいるが、色合いがまさにそれで。  アキラはこっそり、そのアニメ映画が大好きだったのだ。 「ハルは不思議の国のアリスのうさぎだろ? 時計は無かった?」 「あ、これですか?」 「そう! それそれ! これちゃんと腕にな、こうして……巻いとくんだよ」  あのうさぎは時間に追われていて、いつも時計を手にしていた。  胸ポケットではなくカッターシャツの腕部分にその時計を引っ掛ける場所を見付けて、アキラが装着してやった。 「ここに付けるんですね! 一緒に置いてあったからとりあえず持ってきましたけど、これ何の意味があるんだろーって思ってたんですよ」 「ハル、不思議の国のアリス観た事ない?」 「……ないです。これが出てくるんですか?」  ハルが自身を指差して首を傾げるので、アキラは大袈裟に大きく頷いた。 「ハルのが可愛いけど、出てくるよ。でもマジで、ハルのが可愛い」 「えぇ〜そんな事ないですよ。鏡見たくなかったから見て来てないですけど、出来ればこれ脱ぐまで絶対に自分の姿見たくないです」 「なんで? めちゃめちゃ似合ってるよ? 可愛い」 「おい、俺の前で二人でイチャつくな。アキラ、俺の葉璃に可愛い連呼するな。葉璃、その甘えた顔やめろって前も言っただろ」  大好きなアニメ映画から飛び出してきた可愛いうさぎに感動していたところに、セナがずいっと前に出てその姿を遮断してきた。  まったく。これだから嫉妬深い男は嫌なんだ。  やれやれと肩を竦めながらも、アキラは阻まれても尚、セナの背後を覗き込んでハルうさぎに心を奪われていた。

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