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なぜこんなにも普通の親子のように会話を求めてくるのだろう。
父親としての話し方に、隣に居る社長もなかなか助け舟を出してやれずにいた。
水の飲み過ぎで本当に催してきた聖南は、今度こそトイレに行こうとテーブルに手を付いたが、また父親に引き留められる。
「聖南、………怒っているか」
『……………………』
その言葉の意味は聞かなくてももちろん分かったけれど、真意を知りたい聖南はテーブルに付いた手をもとの位置に戻した。
「何が」
「……今までの事だ」
やはり、父親はそういう意味で怒っているかと尋ねてきたのだ。
そんな質問すら間違っている。
怒っていないわけがない。
けれどもう聖南も少しだけ大人になってしまった。
そして愛する人を見付けてしまったから、怒っているのとは少しニュアンスが違う。
葉璃に打ち明けた時から頑丈だった記憶の蓋は開けっ放しにしていたから、漏れ出る寂しさと孤独、ぶつけようのない怒りはどんどん葉璃が上書きしてくれているのだ。
正直、父親に見放された事すらも、すでに聖南の中で遠い遠い過去のような気になっている。
ただこの目の前の男がどうしても父親とは思えない、というだけだ。
「……………どう答えてほしい?」
「それは意地悪な返答だな」
「フッ。 俺を息子だと思うのやめてくれたら、教えてやるよ」
「セナ、それは……」
「大塚、いいんだ。 こんな事を言わせてしまう私がいけなかった。 ………今までの事を悔いている」
面と向かった「悔いている」という言葉に、聖南はこの日始めて父親の瞳を見た。
憎たらしいほど、瞳の形は聖南とそっくりだ。
顔の造作は違えど、瞳だけはこの父親譲りらしい。
無表情の父親と視線がぶつかると、幼かった頃の事が次々と思い起こされて、聖南は下唇を噛んだ。
多分血が滲んだ。 痛い。
「後悔するくらいなら捨てんな。 育てられないなら作んな」
「セナ……っ」
聖南はテーブルを拳でドンッと殴った。
思い起こされた幼き聖南が、広いマンション内で電気のスイッチが分からなくて真っ暗闇で泣きながら一夜を過ごしている。
誰か来て、何も見えない。
大人になった聖南はその様子をジッと見詰めて、抱き締めてあげたい衝動に駆られた。
一度水道が止まった事もあった。
多忙過ぎての単なる払い忘れだったのだろうと今になれば分かるが、小さかった聖南はお風呂もトイレも飲用水さえも、ハウスキーパーがやって来るまで3日間我慢しなければならなかった。
どうして水が急に出ないの。
どうやったら出るようになるの。
トイレ流せないよ、どうしたらいいの?
我慢しなければならなかった事が問題ではない。
その時誰にも頼れなかった、誰にも知恵を貸してもらえなかった、そんな絶望的な思いを幼い我が子にさせる父親を、父親だなんて思えるはずがない。
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