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肩を上下させ、くたりとベッドに沈んだ葉璃を聖南は背後からきつく抱き締めた。
行為の後、葉璃は必ず聖南に背中を向けて横になる。
それはまるで、長時間に及ぶ快楽と疲労を味わわされたせめてもの反抗のように思えて、そんな不貞腐れた葉璃の態度さえも可愛く見えてしまう。
「……聖南さん、鳴ってるよ」
「……いいよ、鳴らしとけば」
「だめ、出てきなよ」
プイと向こうを向いたまま、葉璃が聖南ではなく枕にスリスリしている姿を見るとその枕にさえヤキモチを焼いて、瞬時に奪い去りたくなった。
汗ばんだ肌を撫で回し、余韻でビクつく体と密着していると留まる事を知らない欲がまたも頭をもたげる。
だがキッチンで鳴り続ける家用のスマホが、先程から切れては鳴ってを繰り返していてうるさい。
聖南のプライベートと仕事用のスマホは電源を落としているので、恐らく仕事関係の急ぎの連絡なのだろう。
出たくなくても出ないとマズイのは、聖南も一応は分かっている。
「俺、シャワー浴びてます」
「分かった。風呂のお湯張っててくれる? 電話終わったら一緒に入ろ」
「……エッチな事しないでよっ」
「分かってるって」
ヘトヘトな葉璃のタメ口文句に笑いながら、素っ裸でキッチンまで歩む。
葉璃と少しも離れていたくない聖南は、鳴り止まないスマホを手にベッドルームへと戻った。
すぐに戻ってきた聖南に、上体を起こしていた葉璃が驚いた顔を見せてきたが、構わず聖南はベッドに腰掛け応答する。
「もしもし? 何だよ、朝っぱらから何回も何回も」
『セナか!? 来月記事載せるって女性誌の記者から連絡あってな! アキラがすっぱ抜かれたぞ!』
しつこい電話の主は成田だった。
その成田の尋常ではない慌てた様子にも、なんだその事か、と真相を知る聖南は落ち着いている。
「あ〜もう連絡いってんの? 早えな」
『知ってるのか!? アキラが早朝ロケで捕まんなくてな。どういう事なんだ!?』
「昨日な、俺らと葉璃の四人でメシ行って、葉璃とアキラが散歩に外出た時にフラッシュきたって言ってたんだよ。成田さん写真見た?」
スマホを片手に水を飲んでいると、自分の名前が出たからか葉璃の動きが止まり、モソモソっと聖南の隣にやって来た。
猫のようにピタッと寄り添ってきて気付いたが、体が冷えてきてしまっている。
ベッドの端でくしゃくしゃになっていた毛布を手繰り寄せて葉璃に巻き付けてやりながら、水のペットボトルを渡した。
『見たよ! 相手の顔がよく分からなかったけど、あれ葉璃君だったのか! なんだ……女性にしか見えなかったもんでな……』
「あ〜やっぱり? それどうすんの? そのまま流しても後々それが葉璃ってバレるんなら記事出さない方がいんじゃないの?」
『とりあえず事実確認するからってストップかけてるけど、それも二、三日が限度だよな! 聖南のスキャンダルの時はまったく連絡ナシに局にタレこまれたから防げなかったの思い出したよ』
「いいじゃん、そんな前の話は。どうなったかまた連絡してよ。俺今日午前はフリーだから」
聖南はそれだけ言うと、成田との通話を終了した。
隣からビシビシと可愛い視線を送ってくる葉璃を見ると、ジーッと聖南の横顔を見ていたらしい。
美味しそうな唇に誘われてチュッとキスをしてみれば、無表情だった葉璃の目元が瞬く間に紅く染まって照れ始めた。
「……っ……! もうっ、聖南さん!」
「何だよ」
毛布ごと葉璃を抱き寄せると、聖南は顔をグッと寄せてニヤつく。
すると聖南の顔をやたらと褒めてくれる葉璃の頬が次第にピンク色に染まっていき、もっと動揺させようかと企んでいたところに毛布からガバッと勢い良く葉璃が生まれた。
「何でもないですよっ。それより今の電話、成田さん? やっぱりアキラさんと俺の写真撮られたんですか?」
「みたいだな。来月載るかも」
「えぇっ……!? そ、そんな……アキラさんに迷惑掛けてしまう……どうしよう……っ」
「……アキラなら大丈夫だろ」
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