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何気ない日常の一コマでも、聖南達のようなトップアイドルにとってはどんな些細な事もスキャンダルになり得るのだと葉璃は落ち込んだ。
どうしよう、としょんぼりしてしまった葉璃は、しきりに「アキラさんに連絡しなきゃ」と呟いている。
聖南が知る限りでは、もしこの事が記事になればアキラの初スキャンダルとなるため、アキラはどうするのだろうと多少気になりはするが…。
「アキラさんに謝らないと……」
「いや大丈夫だって。 そんな気にしなくても」
「でもアキラさんに、俺達には内緒で彼女とかいたらヤバイし…」
いよいよジッとしていられなくなったのか「スマホスマホ…」と言いながら立ち上がった葉璃の腕を掴む。
よろける葉璃を聖南は腿の上に乗せて、年上らしからぬ不機嫌さを顕にした。
「あー…っつーか、あんま俺以外の男の名前呼ぶなよ。 しかも俺とのセックスの直後に他の男に電話掛けるつもり?」
「違っ、でも今はそんな事言ってる場合じゃ…!」
「腹立つなぁ、アキラアキラって。 俺よりアキラがいいわけ?」
「違うって言ってるのに!」
聖南は、あまりにも葉璃がアキラの名を連呼していたせいで、自分に気持ちが向いていないとイライラしていた。
兼ねてからの器の狭さをそのまま葉璃にぶつけてしまう。
「どうだか。 アキラはお前の上目遣いとか食べ方とか見てかわいーっつってたし、仮装パーティーでもうさぎ姿のお前凝視してたし、ナイ話ではないんじゃないの?」
「聖南さん!! いい加減ヤキモチやめてよ!」
「やめねぇよ。 だって葉璃が悪りぃもん、俺を不安にさせるから」
葉璃の両頬を捕らえてジッと揺れる瞳を見詰めると、葉璃も真っ直ぐに見つめ返してくる。
昨日のゴタゴタのせいで心のバランスが保てていない事に、聖南自身は気付いていなかった。
いつもであれば、妬きはしてもこんなに問い詰めたりはしない。
なぜなら相手が、聖南にとっても大切な仲間、友人、そして家族であるアキラだからだ。
そんな聖南は、ついさっきまで自分にしがみついて乱れていた葉璃が、アキラに心変わりするのではないかと良からぬ妄想を始めてしまう。
「俺だけ見てくれるって言ったじゃん。 好きだって言ってくれたじゃん。 もう嫌になった? 俺のことどうでも良くなった?」
「……………聖南さん、違うって…」
「葉璃も俺から離れてくんだ? 俺の何がいけねぇの? セックスの時間が長いから? ヤキモチ焼きだから?」
「聖南さん!!」
「…俺は葉璃を愛してるのに……」
離れたくないのに、と小さな声で呟く。
葉璃は今聖南が言った事は何一つ言っていないし考えてもいないのに、以前の葉璃のネガティブがうつってしまったかのような聖南は目の前の体を抱き締めて縋った。
アキラに謝らなきゃと言っただけでこんなにも幼稚な思いに囚われている聖南に、葉璃もぎゅっと抱き締め返して髪を撫でた。
聖南の様子が変なことくらい分かっているし、それが何故こうなるのかも理解している葉璃の手のひらは、殊更優しい。
「聖南さんだけだよ。 俺は、聖南さんだけ。 でもね、聖南さんが嫌でも、迷惑掛けちゃうかもしれないアキラさんには俺は連絡するよ。 でも聖南さんの前でする。 聖南さんが居ないとこでアキラさんと話したら、不安にさせてしまうもんね」
まるで幼い子に語るような口振りで、聖南を刺激しないように、聖南が理解を示してくれるように努めて分かりやすく葉璃は語った。
「不安にさせるな。 ……離れていくな」
「離れてないよ。 俺の心も体も、聖南さんのものでしょ? 違うの?」
「そう」
「だったら不安に思う必要ないよね。 ね、聖南さん?」
素直に頷いた聖南が愛しくて、大きな体全体を使って包み込んでくる温かさに、葉璃は笑みを零した。
時折現れる、気弱でネガティブで甘えん坊な聖南の事が、意外にも葉璃は大好きであった。
そして聖南もまた、自覚がありながらも葉璃に思いの丈をすべてぶつけてしまう甘えを止められない。
どれだけ不安を感じても、葉璃なら聖南のヤキモチなど容易く受け止めてくれるだろうし、呆れずに抱き締め返してくれるともう分かっている。
「葉璃…………」
小さな体を抱くと葉璃の髪から聖南のシャンプーの香りがして、自分のものだと嬉しくなってきた聖南は髪から耳の後ろ、項、喉辺りをクンクンし始めた。
葉璃のにおいと、聖南のにおい、さっきまでのセックスの名残りである生々しい情事のにおいが聖南の鼻腔をくすぐる。
『そりゃ妬くだろ、葉璃…。 俺はお前に夢中なんだから…』
聖南を心配して父親との会食に駆け付けてくれたのはありがたいが、葉璃が親密気にアキラと一緒だった事を聖南は根に持っていた。
アキラを男として認めているが故に、あまりにその名を連呼されては不安になるのも仕方が無かった。
激しく嫉妬しても許してくれる葉璃を嗅ぎまくっている聖南は、その愛する存在を確かめるが如く存分に甘えた。
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