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車内では、動揺しまくりの俺に聖南が色々話し掛けてきたけど、俺は愛想笑いと相槌で返して、会話の内容なんか何も覚えてない。
聖南が被害を被らないためには、俺と聖南は何にも関係ありませんって社長に強調するしかないんだ。
俺に、「離れるな」って聖南は言うけど、それはこんなヤバイ事態が何も起こらなかった時の話。
きっと聖南は、俺と離れたらしばらくはゲッソリしちゃうかもしれないし、俺自身もどうなるか分からないけど、聖南のこれまでとこれからの芸能生活を考えたら、絶対に俺は隣にいちゃ駄目だ。
聖南に甘え過ぎてた。
俺と聖南の立場も考えられなくなるくらい、夢中になり過ぎてた。
アキラさんとちょっと仲良くしただけであんなにヤキモチを焼く聖南の愛が、たまらなく心地良かった。
可愛い可愛いと頭を撫でてくれる温かさ、俺に誓いの言葉を言ってくれて、一生そばにいてほしいと囁いた甘く優しい声。
俺の何が聖南をそうさせているのか未だに分からないけど、有言実行しなきゃって時はあっさり身を引く覚悟なんかすぐ出来ちゃうもんなんだって自分でも驚いてる。
聖南のため、ひたすら、聖南のため。
「葉璃、そんな難しい顔してんなよ。 マジで大丈夫だから」
「うん、大丈夫。 聖南さんは何も心配しないで」
「は? 俺?」
俺じゃなくて葉璃がだろ、って微笑む聖南の横顔はこれ以上ないほど美しい。
聖南のためだと思うと気持ちを強く持つ事が出来始めて、俺も聖南に微笑み返した。
ツラくなんかない。
俺は聖南が幸せなら、それだけで嬉しいから。
事務所の最上階にある社長室に聖南のノックの後に二人で入室すると、社長が高そうな革張りソファに腰掛けてお茶を飲んでいた。
「おぉ、来たか。 座りなさい」
聖南は俺を一度振り返って小さく頷き、二人掛けのソファにドカッと腰掛けると「おいで」と俺を手招きした。
慣れた様子でお茶を手にして啜る様を、俺は立ったまま見詰める。
「葉璃君、どうした? 座りなさい」
入り口から動かない俺に、社長は思いがけず優しい表情でソファへ促してくれたけど、絶対にこれは、後からめちゃくちゃ怒る気だから今は穏やかにしてるってだけだ。
俺が緊張して動けないって思ったのか、聖南が立ち上がりかけたところで俺は意を決した。
「あ、あの!!」
社長と聖南の動きが同時に止まった。
服をぎゅっと握って、一回瞳を瞑って大きく深呼吸した後、聖南を見ると決意が鈍りそうだから、とにかく社長だけを見据える。
この世界の事なんかまだ全然知らない俺は、とにかく結論を急いだ。
「俺と聖南さんは何の関係もないです! 万が一社長がこれまでの事を知ってたとしたら、ごめんなさいです! これからは一切関係ない、先輩後輩になりますから、許してください! お願いします!」
「……………………」
「……………………」
頭を下げて数秒後に上げてみると、二人の視線が痛くてじわじわと後ずさる。
後ろ手に扉のノブに触れてそれを握った。
突然何を言い出したんだと言いたげな聖南が近付いてこようとしたから、俺はゆっくり掴んだノブを回した。
昨日もたくさんエッチしたから体はあまり動く気はしなかったけど、少しだけ我慢して一階まで非常階段でダッシュで降りて、大通りまで出ればタクシー…捕まるよな。
「お、俺いますごく動揺してるから、デビューの事とかお怒りの言葉とか聞けないので、後日また来ます。 あの、本当にごめんなさい。 色々、ごめんなさい…!」
「葉璃? …ちょっ!? っ葉璃!!!!」
ごめんなさいと叫んだ俺は次の瞬間、社長室を飛び出した。
聖南の必死な声を遠くで聞きながら。
俺は聖南より足が速い。
小さいから小回りが効くし、廊下を歩く事務所の人達にぶつからずに走る事なんか容易い。
追い掛けてくる聖南を撒いて、俺は非常階段へと出た。
社長室に来る前にこの場所は確認してたから、迷わず階段を駆け下りる。
涙なんか出てこない。
俺は、聖南と想い合えた事を夢だと思う事にした。
ぜんぶ、ぜんぶ、夢だったって。
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