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49♡ 5P
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過去が過去だからか、聖南はたまに物凄く不安定になる。
寂しがるし、甘えてくるし、俺を離さないって何度も抱き締めてくる。
昨日のお父さんとの会食で俺がブチ切れた事で、聖南の中の漠然とした侘しい思いを少しでも晴らせたのなら良い。
まだまだ心配だけど、俺じゃない誰か…みんなから祝福してもらえるような相手の人が、きっと聖南を目一杯愛してくれるはずだから俺はもういいんだ。
どうなっても。
そうやってぐるぐる考え込んでいると、突然佐々木さんのスマホが鳴って体がビクついた。
スラックスのポケットからスマホを取り出すと、画面で相手を確認した後、なぜか俺を見てくる。
「…ん、春香からだ。 ……はいはい? …あーっと、ちょっと待って。 …葉璃スマホの電源落としてる?」
「あ……落としてます」
時間も時間だし、春香に連絡しなきゃと思ってたのにすっかり忘れてた。
慌ててスマホの電源を立ち上げると、聖南はもちろん、アキラさんとケイタさん、春香、そして謎の番号からの不在着信の通知が山のように届く。
通知音が鳴り止まないからそのまままた電源を落とした。
佐々木さんは春香の物凄い剣幕にスマホを耳から遠ざけて、そのせいで対面している俺にもその悲鳴に近い声が聞こえてきた。
『葉璃、佐々木さんと居るんですか!? 葉璃ー! 今度は何したのよー!! 家にCROWN勢揃いだしよく分かんないけど俳優の荻蔵斗真さんも来てんのよー! 葉璃そこにいるなら早く帰ってきて!!』
「…………聞こえた?」
「……………………はい……」
「春香、落ち着いて。 一時間後に裏梨海岸に来いってセナさんに言っといて。 そこまで俺が葉璃を送るから」
『分かりました!! まったくもう! ネガティブ葉璃! 人騒がせなんだから!!』
怒りのまま電話を切ったらしい春香の般若のような顔が目に浮かぶ。
俺が事務所から飛び出したせいで、どうやらみんなに迷惑をかけてるみたいだ…。
聖南とアキラさんとケイタさん、何故か荻蔵さんまで家に来てるだなんて、信じられない。
「なんかすごい事になってるぞー、葉璃。 今家に来てるのって、セナさんと葉璃の関係を知ってる人達なんだろ? 心配なんだよ、二人の事が。 これでもまだセナさんの想いを無理矢理断ち切らせようっての?」
……そんな事を言われても…。
俺はどうしたらいいんだよ。
聖南のキャリアの邪魔だけはしたくない。
愛し合ってるからって、どうにも出来ない事もあるんじゃないの…?
「何がなんでも、聖南さんが後ろ指さされないように、仕事に影響出ないように、したいです……聖南さんが幸せなら俺も幸せですから、俺は我慢します」
きっと出来るはず、聖南のためなら。
決意は固いんですって思いを込めて佐々木さんを見詰めると、ジリジリと距離を詰めてきて俺の隣に座り直した。
隣に来たからって特に俺に触れて来たりはしないで、長い足をひょこひょこ動かして一人遊びをしている。
「まだそんな事言ってる。 ……それって葉璃はほんとに幸せなのか?」
「…え………?」
「卑屈な葉璃が戻ってきてるな。 ……一人で決めないで、セナさんと話し合えよ」
「やだ! 俺聖南さん前にしたら離れるって気持ち鈍りますもん!」
「鈍るんなら決意が甘過ぎ。 セナさんの事を第一に考えて離れるって言うなら、葉璃がもう少しセナさんの気持ちも考えないと。 これは逃げてるだけだと思う」
「……………………」
な?と、俺の頭に手を乗せた佐々木さんが、またもニヤッと総長で微笑んでくる。
その笑みにビクついて視線を泳がせていると、無表情に戻った佐々木さんにジッと見詰められた。
まるでそれは、俺の心の中を覗いてるみたいだった。
「セナさんは確実に別れないって言うだろ? それを葉璃が断ち切らせるって何か違くない? なんでお互い不幸になるやり方を選ぶんだよ」
「お互い不幸に……? なんで? だって、聖南さんの横に俺がいたらきっと邪魔になる……聖南さんが今まで築いてきた全部の事が無駄になっちゃうかもしれない…。 そんなの俺、耐えられないです。 それなら聖南さんが幸せになる方を選びます」
「セナさんにとっての幸せって何?」
「…………………え……?」
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