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冷静だったのはいつもの佐々木さんただ一人だけだった。
アキラさんとケイタさんが、キレた聖南から俺を守るように目の前に立ちはだかっていて、睨み合う二人の姿は隙間からわずかしか見えない。
「セナさん、あなたがそうだから葉璃は度々不安に駆られるんです。 葉璃の事が大事なら、しっかり繋ぎ止めてあげてください。 葉璃からの好意もしっかり感じてあげてください。 セナさんが葉璃を大事にしてくれないなら…」
言いながら眼鏡を外した佐々木さんが、聖南に一歩近寄って凄んだ。
「俺が貰うって言ってんだろうが。 いい加減、痴話喧嘩はやめろ」
「…………………………」
ドスの効いた声で聖南に詰め寄ったのを見て、俺は恐怖のあまり咄嗟に前二人の服を握った。
総長佐々木さんはすかさず眼鏡を掛けていつものマネージャースタイルに戻ったけど、二度とそういう風には見れないかもしれない。
あれにまったく動じてない聖南にも相当に恐怖を覚えた。
「……佐々木さん何者?」
黙ってその光景を見ていたケイタさんが、ヒソヒソとアキラさんに耳打ちして、慄いてる俺にも優しい視線をくれた。
「さぁ? ……あの様子だと、昔のセナと似たようなもんじゃないの」
「すごいな、鉄仮面の下にはあんな素顔があったのか。 ハル君は知ってた?」
「……あ、はい…ちょっと前に佐々木さんが打ち明けてくれました」
「へぇ〜」と納得した二人は、聖南と佐々木さんに再び視線を戻す。
キレた聖南が危ないって事を二人も知ってるのか、さりげなく俺を庇ってくれる気遣いがありがたかった。
俺のせいなのに、俺は何も出来ない。
ぐるぐる一人で考えて、それが名案だと思って突き進もうとしても、みんながそれは違うって否定してくる。
何をどうしたら、俺は不安と戦えるようになるの。
現実を知ってしまっても、俺は聖南を守る術なんか分からないよ……。
「おーい、社長と連絡ついたぞー」
二人の服をさらにギュッと強く握ったその時、向こうから呑気に荻蔵さんが車内から出て歩いて来た。
ピリついた空気を一瞬で崩すほどのんびりとした登場に、ケイタさんが苦笑を漏らす。
「うわ…荻蔵、やっぱ空気読めないな」
「ハルの家でも誰よりも寛いでたもんな」
苦笑していたのはアキラさんもだったみたいで、二人で俺を振り返ってきた。
「ハル、何も心配しなくていいんだからな。 セナはキレてはいるけど、ハルに怒ってるわけじゃないから」
「ハル君を失うかもしれないって、社長にめちゃくちゃ文句言ったらしいよ」
「えぇぇ………」
そんな………。
社長に文句を言ってほしくてあの場から去ったわけじゃないのに…。
事態が思わぬ所にまで飛び火していそうな気配に、背筋が寒くなった。
この後どうしたらいいんだろう…聖南はどうするつもりなんだろう。
佐々木さんを挟んだ荻蔵さんと聖南が、何やらスマホを持ってコソコソ話してるから気になってチラチラ見てしまうけど、これ以上状況は悪くなりようがない…よね……。
その場に居たせいで佐々木さんをも巻き込んでしまってて、俺はほんとにどうしようもない気持ちになった。
俺のせいだ、俺が自分の気持ちだけで突っ走ったから、こんなにもみんなに迷惑かけちゃったんだ。
今はもう、聖南と離れる離れないの事よりも、この現場の異様な状況で頭がいっぱいだった。
間違いなく忙しいはずのこの五人を振り回した俺は相当罪深く、……謝っても謝りきれない。
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