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スマホを手にした荻蔵さんが中心となって三人が話し込んでるから、俺達は少しだけ離れた場所に移動した。
防波堤を崩したアキラさんとケイタさんが俺に向き直って、優しかった二人ともが真剣な顔で同時に腕を組んだから、あぁやっぱり怒ってるんだって思ったらそうじゃなかった。
「ハルの気持ちも分かるよ、けど突飛な事し過ぎ。 俺らも相当心配したんだからな」
「ほんとだよ。 ハル君もセナと同じで、思い詰めたら周りが見えなくなるタイプだって知ってたけど…昨日のセナの親父さんの事もあるし? もうこんな事ないだろうなって思ってたら今日これでしょ、焦ったのなんの」
「ごめ、……ごめんなさい……」
二人はどこまでも優しく、心配したんだぞって俯いた俺の顔を覗き込んでくれた。
怒られても当然な騒ぎを引き起こしたんだから、こんなにも優しくされたらどうしていいか分からない。
迷惑かけるなって怒号が飛んできてもおかしくないのに、なんでそんなに優しいんだよ…。
「ハル、セナを頼むなって言っただろ? なんで逃げたりしたんだよ」
そうだ、アキラさんから何度も「セナを頼む」って言われてたんだ。
過去の孤独な聖南を知る一人として、そう何度も。
二人が見詰めてくる前で、俺は蚊の鳴くような小さな声を絞り出す。
確かにあの場から逃げたのは突飛な行動だったけど、俺だって聖南の事が大好きだから離れようって決めたんだもん。
「…………俺が聖南さんと一緒にいたら不幸になると思ったから…」
「なんで俺が葉璃と一緒に居て不幸になんだよ。 アホか」
「セナ、アホは言い過ぎ」
「聖南さん………」
話が終わったのか、聖南が後ろからキツく抱き締めてきた。
聞かれてたとは思わなくてハッとしたけど、数時間ぶりの聖南の温かさに思わず目の奥が熱くなった。
苦しい。
聖南の事が大好きで、ほんとは離れたくなんかないのに、聖南を悲しませてしまうかもしれない原因が俺だと思うと苦しくてたまらない…。
「よっ、ハル! 心配したんだぞー? 心配のお詫びはハグでいいよ」
呑気で空気の読めない荻蔵さんは、俺の前にやって来て両腕を広げてきた。
背後から、そんな荻蔵さんを睨み付ける強烈な視線を感じる。
「………葉璃さぁ、社長がなんて言うと思ったわけ?」
俺にしがみついた聖南が、首筋を嗅いでくる。
さっきのキレた聖南じゃなく、耳元で問うてくるそれはいつもの聖南に戻ってて心の底から安心した。
目前の荻蔵さんの両腕はまだ広がっててどうしようかと思ってたら、それに気付いた佐々木さんがそれとなくその腕を下ろさせている。
「……………聖南さんの事を思うなら別れなさいって……」
「んな事言うわけないじゃん。 っつーか言わせねぇし」
「社長はセナの父親代わりみたいなもんだからね。 それに、ハル君が思ってるほど分からずやじゃないよ」
「ハルのネガティブが復活したって事だな。 こんな思い詰めさせて……セナがハルに甘え過ぎなんじゃないの?」
「自覚はある」
あんのかよ、とアキラさんが笑って突っ込むと、ケイタさんまでクスクス笑い始めた。
「セナさんは葉璃を理解してくれていると思ってましたけど。 違ったようですね」
「眼鏡うるせぇよ。 逃げる前はいつも通りの葉璃だったんだから気付くはずねぇじゃん」
俺が引き起こした事なのに、何故か聖南が四方から責められている。
もうみんな俺達の事を知ってるからか、遠慮無しの口撃にいたたまれなくなった俺は、身を捻って聖南を見上げた。
悪いのは俺だし、こうやってあっという間に包囲された以上は、佐々木さんが言ってたようにこれからの事をちゃんと話さなきゃ。
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