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「でも、……でも、俺は聖南さんの隣に居たらダメだ! 聖南さんが苦しむの分かってて一緒には……」
「おい、それ以上言うなよ」
「…一緒には……居られないよ…」
「あ、言いやがったな」
言うなって言われても、聖南の瞳が怒りと悲しみに揺れても、俺が逃げた覚悟は伝えなきゃならない。
ジッと見詰め合う俺と聖南はお互いの気持ちをまったく譲らなくて、視線はしばらくぶつかり合った。
それを黙って見守るアイドルと俳優、そしてマネージャー姿の総長は毒気の抜かれた表情で俺達を見ていそうだ。
「お。 セナさん、社長から折り返しきたっす」
「貸して」
視線の攻防を崩した荻蔵さんからスマホを受け取った聖南が、迷い無くそれに応じた。
「もしもし? 聖南だけど。 ……あぁ、見付かった」
あの社長から………電話……。
謝らなきゃ。失礼な態度取ってごめんなさいって。
不安と動揺丸出しで聖南を見詰めていると、ふとスマホを耳から離して俺を見てきた。
「いいか、俺と別れる気はないってちゃんと言えよ」
「い、いや、無理だよっ……」
「怒ってねぇから、社長は。 とりあえず黙って話聞け。 ……あ、悪いな、葉璃にかわるから」
えぇっ!? どうしたらいいんだよ!
話聞けって、まだ心の準備出来てないよ……!!
オロオロする俺は聖南から無理矢理スマホを握らされて、何の言葉の用意も出来ないままそれを耳にあてがった。
「……かわりました、倉田です……あ、あの社長……」
『葉璃君か? 良かった、無事で。 突然出て行くから驚いたじゃないか。 ……あの後セナにこっぴどく叱られてしまったよ。 葉璃君にあんな事を言わせたくて呼んだわけじゃないんだ』
「…………すみません、突然出て行くなんて失礼な事を……」
『あぁ、それもセナに事情は聞いたから安心しなさい。 謝らなくていい。 とにかく無事で何よりだ。 ……私は昨日あの場に居たからね、そして恐らくセナの父親も君達の関係を勘付いたはずだ。 私共々戸惑っているのは事実だが、セナの気持ちが第一だと思っている。 私に出来る事はするし、セナの父親も同じ思いだ』
まさかとは思ってたけど、やっぱり昨日の俺のブチ切れがすべての発端だったんだ。
俺が怒りのまま、勢いに任せて思いをぶつけてしまった事で、自分で自分の首を絞めて、こんな事態を招いた。
それなのに、大きな芸能事務所の社長ともあろう人物が、こんなペーペーの俺にもすごく気を遣って話してくれてると思うと感慨深かった。
「………社長……」
『セナは世間に公表してもいいとすら言っていたが、それは葉璃君も同じ気持ちなのか?』
「いえ! それは違います!!」
『そうか。 今の世は寛大なようでまだまだそうとは限らない部分も大いにある。 公表するのはタイミングを見なければならないと思っている』
「しなくていいです! それは分かってますし、聖南さんにもそこは自重してもらいたいです!」
『葉璃君がそこのじゃじゃ馬セナを変えてくれたのなら、それは素晴らしい事だ。 私も出来る限りの協力はするからな。 安心していい。 あまりセナを怒らせると私達や仕事にまで影響がくるから、葉璃君がしっかり手綱引いていてくれ』
「…………………分かり、ました………いいんですか、本当に…?」
『いいも悪いも、好きになるのに年齢性別国境は関係ないだろう。 君達がそうなるのはきっと必然なのだろうから、私を含めた周りがとやかく言う事ではない。 ただ葉璃君が思う通り、それを良しとしない人物も大勢いるのもまた確かだ。 何があってもセナと乗り越えてやってくれ。 あいつは強く見えてとても弱い人間だからな』
「……はい…………社長、ありがとうございます……ありがとう、ございます…っ」
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