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それは拍手ものの見事な立ち回りと関節技だった。
影から覗く俺達に気付いた聖南が「もう大丈夫だ」という風に手招きしてきて、ひどくホッとする。
こんな自宅付近でナンパされるのは、俺も春香も初めての事だった。
「あ〜カッコよかった〜♡ セナさん凄かったんだよ、お母さん!」
「二人を助けてくれたんですってね。 ありがとう、セナさん」
聖南も一緒に俺の家に帰ってきて、リビングでお茶する春香と母さんはふらりとやって来た生のセナに興奮しっぱなしだ。
春香に至ってはさっきの立ち回りを見ていたせいで、すっかり聖南を見る目が♡マークだった。
聖南にはあんまり似合わない可愛い湯呑みでお茶を飲みながら、マスクを取った男前はフッと笑って謙遜している。
「いえいえ。 俺はほんとに何も」
「あんなにスマートにナンパ野郎達を黙らせるなんて、セナさん凄すぎです〜!」
「まぁ、そんなにすごかったの? 見たかったわ」
「見せるほどのもんじゃないっすよ」
「セナさん何か習ってたんですか? ほら、武闘系のやつ」
「いえ何も。 昔喧嘩を少々……」
「せ、せせ聖南さんっ!! 何か話があったんだよね!? 二階行こ!」
「あ、そうだった。 じゃあ失礼します。 お茶ごちそうさまでした」
ヤバイって、聖南自らが「喧嘩を少々…」だなんて!
自分からバラすなんてどうかしてる!
慌てて聖南の話を遮って立ち上がり、のほほんとお茶を楽しんでたとこ悪いけど湯呑みを奪い取った。
聖南の背中を押して二階へ上がると、リビングから「もう少しお話したかったわ」と残念そうな母さんの声が聞こえたけど、無視だ、無視。
「この部屋超久々〜〜」
俺の部屋に入った聖南は、ベッドに腰掛けて足を組んでキョロキョロと辺りを見回している。
「聖南さん、どうしたの、急に」
「あ? LINEしただろ。 仕事早く終わったから顔見に行くって」
「えぇ?? …………あ、ほんとだ」
レッスン終わってから春香と連絡を取って、それからスマホを触ったのは佐々木さんにスケジュールを見せた時だけだ。
聖南が来てくれるのはいつだって嬉しいけど、サプライズの作戦を練ってた直後だとまた嘘を見破られてしまいそうで怖い。
妙に鋭いんだもんなぁ…。
「レッスン終わりでどこ行ってたのかなー? 俺の葉璃クンは」
「春香と久々にご飯行こってなって、すぐそこのファミレスで夜ご飯食べてたよ」
「そーなんだ? LINEに気付いてくれてたら俺も行ったのに」
「……そうだね、ごめんね。 聖南さんは今日何のお仕事だった?」
「今日? 今日はバラエティの収録と音楽番組の収録、夕方からツアーリハ。 スタジオ整備で早めに締め出されてさぁ。 いつもより二時間早く上がれたから葉璃に会いに来た」
言いながら両腕を広げてきた聖南の元へ歩むと、ぎゅっと抱き締められた。
聖南は座ってるから俺の胸に聖南の頭がきて、疲れてるのかなと思ってその赤茶の髪を撫でる。
話を逸らす事も出来たみたいで、ひとまず安心だ。
「お疲れさまです」
「あー…さいこー。 癒やされるー」
「ふふっ。 これだけで?」
「そ。 葉璃は俺の癒やし。 てか葉璃達がナンパされてるとこ見付けたから、マジで来て良かった」
少し時間が空いたからってわざわざ来てくれて癒やしだと言ってくれる聖南を愛しく思いながら、ほんとにさっきは凄かったなって溜め息を吐いた。
「聖南さん、さっきのカッコよかったよ」
「いや…葉璃ママと春香に言われんのは平気だったんだけどな……。 葉璃に言われると照れる」
「照れてる?」
顔を覗き込むと、ほんとに聖南はいつもの余裕綽々な表情じゃなく、微妙な苦笑いを浮かべていた。
………聖南さんが照れてる…。
「あ、あれ俺らのMVじゃねぇ?」
きゅっと聖南の頭を抱くと、照れ隠しなのか俺の机に置いてあったDVDプレーヤーを指差して立ち上がった。
プレーヤーの隣にはパッケージもあったから、それを見付けたらしい。
「そうだよ。 CROWNのデビュー曲は体に入ったから、次はこの曲なんだけど…すっごい難しいから持ち帰って練習中です」
「そうなのか。 …ツアーリハ、レッスン終わりに葉璃達も俺らのスタジオ来たらいいじゃん。 教えてやれるよ」
「え!? いいの!? ……あ、ダメだ!」
嬉しい申し出に二つ返事で頷こうとして、例のサプライズライブの事を思い出して咄嗟に首を振る。
レッスン終わりはそっちに行かなきゃいけないから、どう考えても無理だ。
危ない流れになってきた…。
絶対にバレちゃダメだ、サプライズなんだから…!
「ダメ? なんでダメなんだよ」
「あ、あの…時間合わないし…」
「多少は葉璃達に合わせてやれるよ?」
「ダメ、ダメだよ、迷惑かけられないし…」
どうしよう、どうしよう、なんで急にこんな危機的状況に…!?
嘘が下手な俺は頭をフル回転させた。
「レッスン終わったらもう19時過ぎるでしょ? すぐ帰らないと、翌日の学校に支障が出るから…」
「そういう事か。 宿題とかあるもんな。 じゃあ俺らが空いてたらレッスン時間内にそっちに顔出すようにすっから。 特にケイタには言っとくよ」
俺がツアー同行しろって無理言ったからな、と笑って頭を撫でてくれた聖南にピタッとくっついて甘える。
ごめんね、聖南……嘘ついて。
俺頑張るから。
聖南に喜んでもらえるように、めちゃくちゃ頑張るから。
CROWNのツアー直前で無理しちゃうけど、これは俺のステップアップにもなる気がするから……許して、……聖南。
後ろめたさが消えないまま、優しく抱き締めてくる聖南を恐る恐る見上げた。
すると瞳を細めてふっと笑ったアイドル様は、小さな声で今度は俺に甘えてくる。
「葉璃、キスして」
「ん」
俺の部屋でする二度目の秘密のキスは、最初の頃より気持ちが通い合ってるからか、それとも隠し事をしているせいなのか、とてもとてもドキドキした。
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