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【必然ロマンショー】♡困惑♡②

葉璃からにおいを察知したらしい聖南は、かれこれ数分もの間目を閉じて何かを感じ取ろうとしていた。 ちょうど聖南が目を瞑っている状況なので逃げ出そうと思っていたのだが、手をギュッと強く握られているので無理だ。 聖南の瞑想が長くなりそうなので、はぁ…と葉璃は小さなため息を吐いた。 もう春花の歌唱も終わっている頃だろう。 せっかく応援に来たのに、出番前に激励も出来なかった。 賑やかで豪華なキャバレーは、未成年である葉璃にとっては幻のようにきらびやかに映り、居心地は悪いが美しい場所だとは思った。 ショーガールになるためにはどうしたらいいかと奔走していた春花が、色々なツテを使って佐々木と出会い、今や大きなキャバレーの舞台に立たせてもらえるまでになっている。 着々と夢に向かってひた走る姉の背中を、葉璃はぼんやりと眺めているだけ。 友も居なければ趣味もなく、学校と家の往復で過ごす毎日はとても単調である。 生まれ持ったα性の優遇された人生により、葉璃と違ってこの男は毎日が輝いていそうだ。 楽しみが多く、活動的なのは羨ましい。 それだけ選択肢も広がるし、能力的な面も他の性に比べて格段に高いので、どんな事があっても強くいられると思う。 佐々木も、聖南も、見るからに格が違う。 貧富の差というのはこの性の違いが根底にあったのだと、最近は特に感じる。 性を知りたがる葉璃に佐々木が試そうとしたのは、葉璃との性交だった。 強く欲情した時に本質が表れ、α性である佐々木が本能で感じ取ってそれを見極めてくれるというものであったが、葉璃は佐々木を拒絶した。 うまく説明出来ないけれど、キス一つで佐々木の胸を押して首を振った。 これ以上は出来ない、と。 なので葉璃は欲情せぬまま、結局自身の性は分からずじまいである。 姉の春花もそうらしいので、きっと葉璃も同じくβ性だろう。 α性やΩ性はかなり希少な性だと聞いたから、葉璃がそれに値するとは思っていない。 性を知ったところで何がどう変わるわけでもないし、もう気にしないようにした。 憧れの佐々木が身を挺して葉璃の性を探ろうとしてくれて嬉しかったのに、なぜ拒絶してしまったのだろうか。 男だから、というのはあまり問題ではない。 体を繋げる事に抵抗はあっても、佐々木とならいいかなとさえ思っていた。 だから尚さら、不思議だった。 聖南の長い瞑想に付き合っていると、どこからか葉璃を呼ぶ声がする。 その声は聖南にも聞こえたようで、マネキン人形のように動かなかった体にわずかに力が入った。 「葉璃! 探したぞ! ……なんと。 犯人は聖南さんでしたか…」 落ち葉を踏み鳴らして駆けてくる足音の正体は、たった今思い浮かべていた佐々木であった。 佐々木の声がした瞬間、握られていた手にさらに力が込められたのが分かった。 「………はる?」 「帰るよ、葉璃。 今日は私の家に来る日だろう」 「家に? そんなの許さないけど。 俺いま求婚したし」 「求婚って…! 聖南さん、以前にも言いましたが、葉璃は私のものです。 あなたには渡しません」 「何だよ、さっきから「はる、はる」って。 こいつは「はるか」だろ? ちゃんと名を呼べ」 握っている手を離さない聖南と、二の腕を掴んでくる佐々木に挟まれて、葉璃は困惑しきりだった。 葉璃を女だと思っている聖南の誤解は、もはや素性をバラしてしまわなければ解けない気がする。 真っ直ぐな瞳で求婚してきたところを見ると、恐らく「はるか」への想いは本物だ。 何とか聖南の手から逃れた葉璃は、助けを求めるように佐々木の背後へ素早く駆ける。 「あっおい、はるか。 俺に時間をくれと言っただろ。 今夜そいつと寝たら承知しないぞ」 「聖南さんには関係のない事です。 夜の相手は他で見繕っていただきたい」 「そんな事言ってるけど、まだお前ら最後までしてねぇだろ? 俺に入る隙があるうちは諦めねぇよ」 ゆらりと立ち上がった聖南を、葉璃は佐々木の背後から見上げた。 やはり大きな男だ。 身なりも、身に着けている金属も、高そうなものばかり。 何より、上流階級のα性の者達は皆こんなに爽やかな匂いがするのか。 改めて客観的に見ると、聖南は本当に上質な男である。 「聖南さんのような女たらしに、葉璃を奪われるわけにはいきません。 男である葉璃を愛せる私でなければ、大切にできません」 「………………は? 何? 今何と言った?」 「この子の名は葉璃。 男です。 男β性です」 さらりと言い放った佐々木に面食らったのは、葉璃だけではなかった。 「な、なんだと!??」 目前の色男は、驚く顔すら美しい。 「以前お会いした際、姉の春花が病に倒れていると言ったはずです。 そこでこの葉璃が助っ人に。 あなたが惚れたと言っているのは春花の事でしょう」 「そんな……そんな馬鹿な……!」 驚愕したまま葉璃を見詰めている聖南の瞳がゆらゆらと揺れている。 男である葉璃に、求愛どころではなく求婚してしまった事を後悔しているかのように絶句している。 ………騙してごめんなさい。 聖南の一世一代の本物の告白を、自分が聞いてごめんなさい。 葉璃は佐々木の背中にしがみついて俯いた。 悪い事をしたなぁ、と詫びの気持ちを抱くのと同時に、聖南の熱い瞳を思い返すと何となく…胸が痛かった。

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