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【必然ロマンショー】❥自覚❥

佐々木の背後に完全に隠れてしまった葉璃を見詰めて、聖南は立ち竦んで戦慄いた。 今聞いた事が本当ならば、それはつまり男である葉璃に恋をしたという事になる。 『い、いや、…待て、落ち着け。 俺に男色の趣味はない…!』 いくら何でも、性別を飛び越えてまで体を重ねようとは思わない、…思わない、はずだ。 でも何故だ。 男だと知っても尚、佐々木の背中にピタリとくっついて離れない葉璃に怒りが湧いた。 聖南ではない男に縋り付く姿は、思わず目を背けたくなる。 出会って間もない、男である葉璃が相手でも、だ。 「そういう事ですので、聖南さんはキャバレーにお戻りください。 出番が控えていますよ」 「……………言われなくても」 佐々木が葉璃の手を取って振り返り、フッとニヤついてきた。 惚れたと言いながら、性別の枷に取り憑かれた聖南を嘲笑うかのようなそれに、奥歯をギリギリと噛む。 『腹の立つ野郎だ…! しかし……このまま無かった事にしていいのか…?』 先程神経を研ぎ澄ませていた際の「もしかして」を、聖南はまだ確かめていない。 ほんの僅かだったが、視界が揺らぐほどの何かが聖南を襲った。 咄嗟に葉璃の手を握ってその正体を追っていたが、……あれは何だったのだろうか。 ふわっと鼻孔をくすぐったそそられるにおい、そして脳に直接入り込んできた強烈な欲求の正体とは──。 「あ、あの…っ、騙してしまって、ごめんなさい! 俺が責任を持って、今の求婚、春花にちゃんと伝えます! あなたほどの色男に求婚されたと知れば、春花はきっと……!」 一言謝らなければと思っていたようで、葉璃が立ち尽くす聖南の前に一人で走って戻ってきた。 生真面目だ。 『……そう言われてもな…』 今自分がどんな顔をしているのか分からなかった。 それほど落胆はしていない。 確かに驚きはしたが、愕然とまではいかない。 目の前にやって来た葉璃を見下ろせば、やはりこの潤んだ瞳に吸い込まれそうになる。 ───この子を逃がしてはならない。 聖南の思いは変わらなかった。 「お前は本当にβ性か?」 「…っえ?」 無邪気に見上げてくる、触れてみたかった葉璃の右頬をゆるりと撫でる。 透き通るように色白で、かつきめ細やかな肌はとても柔らかい。 男だと知って狼狽えてしまった自身を叱咤したくなるほど、目前の瞳に釘付けだった。 「聖南さん、何を仰って…」 佐々木が葉璃を取り戻すべく近付いてきている。 性別が違うから愛せないだろうと聖南を嘲笑してきた憎い男なんかに、葉璃は渡せない。 聖南も半信半疑だったが、葉璃の両頬を捕らえて顔を寄せていく。 佐々木に邪魔される前に、聖南も己の気持ちを知りたかった。 「確かめたのか?」 「え、……それは…」 「じゃあ俺が確かめてやる」 「な、っ…………んっ…!」 聖南はいくらも屈んで、葉璃の唇に自身のを押し当てた。 触れていた頬が数秒足らずで熱くなってくる。 葉璃は嫌がっていない。 それどころか、驚き、照れているにも関わらず聖南の手に自身の手のひらを重ねてきた。 「聖南さん!!」 唇を割って舌を入れ込むと、葉璃の体がビクッと強張った。 佐々木が大声を出したせいもある。 引っ込み思案な舌を見付けてゆっくり交わらせていき、葉璃の頬から腰へと右手を滑らせ、さらに体を密着させた。 初なはずの葉璃も、聖南とのキスが心地良いのか首元に腕を回してくれた。 『これだ……この香り。 やっぱりこいつはΩ性だ』 α性である聖南の脳を痺れさせる感覚的な刺激と、香り立つ耽美なにおい。 それは間違いなく葉璃から放たれていて、聖南は確信した。 『こんなに欲しいと思った奴はいない。 性別なんか関係あるか』 ひとしきり舌を絡ませて、最後にちゅっと音を立ててのキスを合図に聖南は葉璃から離れた。 腰砕けな様子の葉璃の体を支えてやると、佐々木がこめかみを押さえて聖南を睨み付けている。 さっきのお返しとばかりに、聖南はフッと笑った。 「Ω性のヒトの本質を開花してやるのもα性の役目だろう。 何をやってたんだ」 「………………………」 「お前もα性なら今の香りを感じ取ったはずだ。 凄まじいにおいだったからな。 発情期が待ち遠しい」 聖南はとても気分が良かった。 これまでβ性だと信じて生きてきたであろう葉璃を、聖南がキス一つでΩ性へと導いてやったのだ。 この時代の性の見極めには色々な手段があると聞く。 だが一番手っ取り早いのは、相手を欲情させてのα性の感知だ。 体を繋げるまでもなく葉璃は聖南に欲情した事になり、香り立ったにおいに聖南も自分の気持ちを思い知った。 この上なく気分がいい。 「…………聖南さん、あなたに葉璃は抱けません」 対して、近付いてくる佐々木は何とも不機嫌そうである。 自分のものだと豪語していた葉璃が実はΩ性で、それを佐々木ではなく聖南が開花させてしまった事を不愉快に感じている。 きっと佐々木は、それだけ本気で葉璃に惚れていたのだ。 「なぜそう言いきれる? 目覚めさせたのは俺だ。 もう、何があっても手放せない」 「あの、…一体、何の話を…?」 腕の中の葉璃が、聖南に体重を預けたまま見上げてきた。 ───可愛い。

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